春真っ盛りだ。来週のサザエさん風に言うと「『春ですね』『花より団子』『タマ発情期』の三本です。」という感じ。最近うちの猫も毎晩にゃーにゃーうるさくて眠れやしない。おかげで「春眠、暁を覚えず」状態だ。眠い目をこすりながら喫茶店でモーニングを食していると隣の席が朝から熱い。就職活動中の学生が、若いサラリーマン相手に自己PRをしている。いわゆるOB訪問だ。「私は高校二年の夏休みに自転車で岡山まで行きました。その旅の過程で様々な人たちとコミュニケーションを深めました。そして何よりも一つのことを成し遂げたという達成感を得ることができました。」隣で聞いていただけで「ご馳走様、もう沢山です。」と言いたくなった。モーニングにカツどん食べちゃった感じだ。
私が学生だった頃から、就職活動中の学生は何かの過程で「コミュニケーションを深めた」ことがある人ばかりだったし、「達成感」や「向上心」といった3文字の言葉が好きだった。そして自転車旅行自慢もやたらに多かったように思う。3,4人が同時に面接を受ける集団面接などではネタが被ってしまう可能性もかなり高いのではなかろうか。
もしそういうことになれば、まずどこまで行ったかという距離の争いが展開されることになるだろう。「私は岡山まで行きました。」「私は広島までです。」「私は箱根までです。・・・確かに距離では負けますが、登りコースでした。」という人も出てくるかもしれない。しかしこれでは誰も印象には残るまい。奥の手だ。「これだけは言うまいと思っていたのですが、実は私の自転車は補助輪付きでした。」「何だって!君はまともに乗れもしないのに自転車旅行をしたというのか!・・・部長、この若者は・・・」「うむ、素晴らしいチャレンジャースピリットだ。我が社は君のような人材を求めていた。採用!」ということになるかもしれないし、ならないかもしれないが、多少思い切ったことを言わないと印象に残らないことだけは確かだ。
私は学生時代ミュージカルをやっていた。かなりレアな存在のつもりでいたのだが、集団面接で私を含めた3人がミュージカル自慢という事態を経験した。劇団四季を受験したわけでもないのに。ミュージカル部屋同士の同門対決。私は同じ土俵に上がることを避けた。「私も一生懸命やったつもりですが、お二人に比べればほんのかじった程度で大したことありません。結局最後まで体が硬いの直りませんでしたし。ミュージカルをかじってハグキから血が出たというところですね。」こんなんでも、その面接で勝利を収めたのは私だった。やはり多少思い切ったことを言ったのが勝因であろう。それに、面接官はオジサマたちであるということも見逃してはいけない。
偉そうなことを書いてしまったが、私は自己紹介が苦手だ。就職活動中もイヤだったが、アナウンサーになってますます嫌いになった。そもそもアナウンサーは「自己紹介して」と言われた時点で負けだ。番組を見て貰えていれば、そんなことは求められないはずだからだ。逆に、もし求められてしまった時には、私は「相手の相にさんずいの澤・・・」などと電話で何かを申し込んでるかのような自己紹介をしてアナウンサーであることを極力隠すことにしている。アナウンサーであることが発覚すると何かと面倒なことになるからだ。大抵はまず「『こんばんは』って言ってみてー」と言われる。本当にアナウンサーなのかどうか確かめたいらしい。仕方なく「こんばんは」と言うと「アナウンサーみたい!」と言われる。みたいって言うなー!中には「似てるー」とか言う人も。誰にじゃ!だから合コンなんかキライなんだ。さらに最悪なのが「早口言葉言ってみて」というリクエスト。「面白いこと言って」と言われる芸人さんの気持ちが少しわかる。結構プレッシャーがかかるものだ。別に早口言葉ぐらい言えるんだけどさー。・・・一日も早く自己紹介しなくて済むように有名になりたいものである。
多少思い切った自己紹介をしたいという方は「飛び出せ!若人」三月二十日号を是非お読みください。
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