テレビ愛知

Vol.012 文:相澤伸朗  
「あ、どうぞ、びださんぼ一緒に歌って下さい(武田鉄矢さんのモノマネで)」

 会社の人たちとカラオケに行った。カラオケボックスを出たところでI君がK君にダメ出しをしていた。「尾崎ばっかり歌いすぎ。あれじゃ盛り上がらないよ」没後10年。もうみんな尾崎から卒業してしまったのか?悲しい思いできいていると、どうも違うらしい。「カラオケはノリだよ、ノリ。やっぱ矢沢でしょ!」・・・それって趣味の問題じゃん!ほっとけばいいのにと思ったが、よくよく考えてみれば私もかつてカラオケの後でI君にダメ出ししたことがあった。「君なー、矢沢歌うとき『カモン!』て言いすぎ」これこそ余計なお世話というものであろう。ダメ出しした自分にダメ出ししたい。そもそも私には人にダメ出しする権利などなかった。実は私こそ、カラオケでもっともダメ出しされるべき人間であった。わりとモノマネなんかしちゃう方なのだ。しかも中途半端な。私が歌っている最中に「これ、モノマネ?」などと小声で話し合いがもたれたりしてしまうのだ。

 先日、芸能人だらけの飲み会があった。私の真正面には柴田恭兵さんが座っていた。やがて宴もたけなわとなり、カラオケが始まった。私は周囲の制止を振り切って、柴田恭兵さんの「ランニング・ショット」を歌うことにした。このモノマネには自信があったのだ。ところが、ご本人と一緒という緊張感のためにいつもの調子が出ない。「行くぜっ!」がなんだか甲高い。しまいには声が裏返り始める。ウラ声で「行くぜっ!」もないもんだ。どこに行くというのか?周りの人たちの冷たい視線にいたたまれなくなり、目を覚ました。そう、夢だったのだ。いたたまれなくなって目を覚ましたのは生まれて初めてだ。こういうのも悪夢というのだろうか?全身汗でびっしょりになっていた。

 夢ぐらいで懲りるわけもない。私のものまねカラオケはその後も繰り返された。この間は「ピクミン 愛のうた」を武田鉄矢さんのモノマネで歌ってみた。意外にこれがはまった。嬉しい発見だった。武田さんのモノマネが出来るという方は是非一度お試し頂きたい。かなり気持ちよく歌える。本人的には手応え十分だった。ところがオーディエンスからは全くリアクションなしであった。私は「料理本を見ながら一生懸命作ったビーフストロガノフをものの3分で食べられてしまった主婦の気持ち」を味わった。「もうっ、うまいかまずいかぐらい言いなさいよー。張り合いないんだからー」・・・どうでしょう?このたとえは。

 それでも懲りない私。Sさんの送別会でもまた武田鉄矢さんのモノマネをした。曲は「贈る言葉」。「ちゃんと本人の曲を歌えば、このモノマネは通用するはずだ」という気持ちからだった。私の武田さんのモノマネは歌中に「あ」をちりばめる。また思いっきり鼻にかけて声を出すため、もはや「贈る言葉」ですらなく、「あ、贈ることぉだぁ」になる。武田鉄矢さんのモノマネというよりも、武田さんのモノマネをするウッチャンや木梨さんのモノマネだ。そんな有り様なのに、ふと見るとSさんの目に光るモノが!!!いいのか?そりゃ送別会にふさわしい選曲だったかもしれないが「贈ることぉだぁ」だよ。「ひかぁりと、かげどぉだか」だよ。あれ、でも待てよ。驚きはやがて野心に変わった。こんなんで泣いちゃうってことは、真面目に泣ける曲を歌ったら・・・・ ・号泣じゃん!私はすかさずオフコースの「言葉にできない」を選曲した。私には、どうしてもちゃんとした曲で泣かせたいという気持ちもあった。だってモノマネで泣かれたら、なんか微妙じゃん。笑い取りに行って泣かれちゃったわけで。

猪木のモノマネ

 私はウーロン茶で喉を潤し、静かに出番を待った。ところがイントロが始まった時、そこにSさんの姿はなかった。隣の部屋に行ってしまっていたのだ。「♪虚しくってぇー虚しくってぇーことぉだにできだぁい」私はまた得体の知れないモノマネを始めたのだった・・・。

 

Nobuo Aizawa

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