テレビ愛知

Vol.027 文:相澤伸朗  
「マルタ島短期語学留学レポート2「ワラをもつかむ思いで健康をアピール」
2003年8月27日更新
 私は「アップル」を「アポゥ」、「トマト」を「トメイトウ」、「マイケル」を「マイコー」と自然に発音することが出来る男だ。日本人としてはそんなに英語の発音が悪い方ではないと思う。
 しかし、日本の英語教室で、日本人の英語の発音になれた外国人教師や日本人のクラスメート相手に話すのと違って、マルタの語学学校でヨーロッパ人のクラスメートを相手に話してみると思ったより通じなかった。

 初日にペーパーテストを受けて、一応レベルごとにクラス分けされたはずだが、教室で実際に話してみると、私の英語の発音はダントツで悪いようだった。「悪いようだった」という表現になったのは、本人にはそこまでひどいという自覚がなかったからだ。むしろ、イタリア人のクラスメートが「think」を「ティンカ」、「number」を「ナンバラ」と発音したりしているのを聞いてひどいもんだと思っていた。

 ところが、クラスメートたちは私が発言している間だけ、眉間に深い皺をよせたり、遠い目をしたりしていた。つまり、聞き取ろうと必死に努力していたり、聞き取ることをあきらめたりしていたのだ。聞き返されることも多かった。「help」と言ったのに、「health?」と聞き返されたときは心底へこんだ。トホホ、こんな基本的な単語すら通じないとは。万が一、私が地中海で溺れて、手足をバタつかせながら必死に助けを求めたとしても、周囲の人たちには健康をアピールしているようにしか思われないのだ。

  そして、これはもう英語の問題ではないのだが、名前すら聞き取って貰えなかった。私の名前は「ノブオ」だ。それを少しでも簡単にしようと「ノブ」と名乗ったにも関わらず、「ノーブラ」とか「ノーベル」などと勝手なことを言う。私はその都度「誰がそんなにセクシーか!」とか「誰が1883年ストックホルム生まれか!」と力強くつっこんだものである。心の中で。
 中には「ノボゥ」と鼻から抜けたような発音をして「フランス語みたい」なんてなことを言う輩もいた。フランス語っぽく発音するからフランス語になるのだ。フランス語っぽい名前の日本人などいるものか!と、さらに激しくつっこんだのだった。心の中で。

 たったの二文字でもカタカナはそのまま聞き取ってもらえない。どういうわけだか、彼らの耳を通ると別の音が交じってしまうようなのだ。きっと私の英語もカタカナ訛りだから、彼らの耳を通すと別の音が混じってますます本来の英語の発音からかけ離れたものに変わってしまうのだろう。だから思ったより通じないのだ。話すことが恐くなり、授業中の発言回数がみるみる少なくなった私に先生が声をかける。
 「元気がないわね、ノーブル」

 そんな状態なのに、クラスメート全員を相手に議論するはめに。次回「地図とパラシュート」をお楽しみに!
Nobuo Aizawa

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