ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ

主な見どころ

名古屋の姉妹都市、フランスのランス市のコレクションが来日

ランス市は19世紀末から、シャンパン生産や繊維産業で繁栄しました。個人所蔵家からの多くの寄贈を背景に、ランス美術館は19世紀フランス風景画の優れたコレクションを有しています。本展は、ランス美術館がリニューアル休館中である今だからこそ実現した企画です。選りすぐりの油彩画約50点に個人蔵の版画26点をあわせてご紹介します。

フランス風景画の巨匠、コローの傑作がまとめて見られる貴重な機会

ランス美術館は、ジャン=バティスト・カミーユ・コロー(1796-1875)の油彩作品を27点所蔵しており、これはフランス国内でルーヴル美術館に次いで数が多いことで知られています。本展では、地中海の光のなかで踊る男女を叙情的に描いた《イタリアのダンス》や、傾いだ木々のダイナミックな動きによって優れた対角線構図を用いている《突風》など、コローの傑作16点をまとめてご覧いただけます。

19世紀フランス風景画の展開が学べる

印象派の登場以前には、イタリアやフランス各地を訪ねて詩情豊かに描き上げたカミーユ・コローや、自然の姿に魅了されたバルビゾン派の画家たち、さらにクロード・モネを戸外制作へ導いたことでも知られる“空の王者”ブーダンがいました。彼らの作品、そしてモネ、ルノワール、ピサロら印象派の絵画を、当時の資料などとともにご紹介します。

展覧会構成

第一章コローと19世紀風景画の先駆者たち

19世紀は近代社会の大きな転換期ですが、「風景画」にも大きな変革がもたらされた時代でした。それまで風景画は、歴史画に比べて絵画主題のヒエラルキーの下層に位置しており、画家たちは“神話”や“古代の場面”の背景として“風景”を描いていました。これに大きな変革へのきっかけをもたらしたといわれるのが、ピエール=アンリ・ド・ヴァランシエンヌ(1750-1819)の著書(『芸術家のための実用遠近法入門および画学生とくに風景画をめざす学生のための省察と忠告』1800年)です。彼は風景画を独立したジャンルとして主張し、画学生たちに対して、もし歴史画家を越えたいと思うのなら外に出て自然の光を学ぶべきだ、と忠告しました。ヴァランシエンヌのもとで学んだアシル=エトナ・ミシャロン(1796-1822)は、イタリア各地をはじめとして積極的に各地に出かけて習作を描き、それらをもとにアトリエで完成作を仕上げました。そしてそのミシャロンの弟子が、繊細かつ詩情豊かな風景画で現在も高い人気を誇る、カミーユ・コロー(1796-1875)です。彼は自然が与える瑞々しい印象を画面に記録した最初の画家の一人だと言えるでしょう。
本章では、ミシャロンなどバルビゾン派の先駆者たちの作品に加えて、コローの傑作16点やギュスターヴ・クールベ(1819-1877)の作品を紹介し、フランスにおいて「風景画」というジャンルが地位を確立していった流れを概観します。

第二章バルビゾン派

「バルビゾン派」とは、19世紀中頃のフランスの風景画家のグループを指しており、その名称はパリ南東約60kmのフォンテーヌブローの森に位置する小さな「バルビゾン村」に由来しています。従来の絵画制作はアトリエで行われていましたが、鉄道の発達やチューブ入り絵具の発明によって戸外での制作が容易になり、以降この小さな村はすぐさま風景画家たちのお気に入りの場所の一つとなりました。彼らは戸外で直接自然と向き合い、神話や宗教の主題を排除して、羊の群れや森の片隅といった身近な風景を描くことで、近代風景画を切り拓きました。
本章では、テオドール・ルソー(1812-1867)、シャルル=フランソワ・ドービニー(1817-1878)、ナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ(1807-1876)、ジュール・デュプレ(1811-1889)、コンスタン・トロワイヨン(1810-1865)、シャルル・ジャック(1813-1894)といった、自然の姿に魅了されたバルビゾン派の画家たちによる作品を紹介します。

第三章画家=版画家の誕生

19世紀後半の版画制作で、画家たちによって最も広く使用されてきた技法の一つに、銅版画の一種であるエッチングがあります。この技法は銅版画の中でも制作が容易で、画家が自由に素早く描いた線描を活かすことができました。さらにはクリシェ・ヴェール(デッサン、版画、写真を融合した新しい技法)も誕生します。こうして版画に高い関心を持った画家が増え、画家でありながら版画も積極的に制作する芸術家(画家=版画家)の活躍が顕著になりました。本章では、そのような芸術家たち、ドービニーやヨハン・バルトルト・ヨンキント(1819-1891)などによる版画作品をご紹介します。
また、19世紀中頃の画商や出版社は、販売促進などの目的で、絵画を原画とした複製版画を新聞・雑誌や商品カタログに多数掲載したり、版画集として刊行したりしました。後の時代のセザンヌ、ファン=ゴッホなどの画家たちは、こうして普及した版画をもとにしてジャン=フランソワ・ミレー(1814-1875)など同時代の作品の模写を制作しています。このように版画は、19世紀フランス美術業界の発展に貢献するとともに、同時代の作品の図像を後世へ橋渡しする役割を果たしたのです。本章では、ミレーの素描を原画とする《野良仕事》を掲載した「イリュストラシオン」誌や、書籍『田園の風景画家』に掲載された、戸外制作する新しい画家の姿を伝える挿絵版画などもご紹介します。

第四章ウジェーヌ・ブーダン

ウジェーヌ・ブーダン(1824-1898)は、生涯の多くをフランスのノルマンディー地方で過ごし、ノルマンディー沿岸の海景を数多く描きました。
彼は空と海辺の大気の効果に対する鋭い観察眼を持ち、カミーユ・コローから“空の王者”と称されました。一方ブーダンがコローから学んだことは、平行に層を積み重ねていく画面構成や、灰色を基調とする色彩です。時間や天候による空と海の移り変わり、そして船が停泊する港や動物が集う水辺などの情景を、粗い筆触で捉えて描き出しました。
このようにブーダンは、大気の効果を十分に観察して素早く力強いタッチで描くことで、光と瞬間の表現を追求する戸外制作の先駆者の一人となりました。印象派の画家クロード・モネ(1840-1926)に自然に直接学ぶことを教え、彼を戸外制作へと導いたことでも知られています。
本章では、ランス美術館が所蔵するブーダンの傑作7点をご紹介します。

第五章印象主義の展開

印象派の画家たちは、目の前で刻々と変化していく自然を体験し、大気と光の効果を描きだそうと戸外で制作を行いましたが、それは前章までに見てきた画家たちとの交流によって導かれた制作態度です。例えば、画業を通じて多くの風景画を描いたピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)は、バルビゾン派の画家たちと同じようにフォンテーヌブローの森で、またブーダンと同じようにノルマンディー沿岸で、制作を行いました。さらにクロード・モネは、ブーダンやヨンキント、ドービニーに教えられながら画家になるための修業を積み、戸外制作を行いました。モネの連作に倣ったカミーユ・ピサロ(1830-1903)は、ルーヴル宮などパリの都会的な風景を、水や空といった自然のなかの移り変わりやすい要素の中に描いています。このように見ていくと、革新性が強調されることの多い印象派の作品は、むしろ風景画の歴史やそれまでの制作方法を真摯に引き継ぎ、そこから発展して生み出された絵画であったことがわかります。その新しさは、粗い筆致や鮮やかな色彩で自然を捉えるという描き方そのものではなく、従来のアカデミーの絵画観では「習作」と捉えられかねないそのような作品を、堂々と「完成作」として発表したところにありました。
本章では、モネ、ピサロ、ルノワールといった印象派の画家たちの作品を紹介します。彼らがどのように大気の変化や光を捉え、「風景画」として提示していったのかをご覧ください。

名古屋市美術館

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