FEAUTURE特 集
ザ特集
宿とともに70年
19.08.26
戦後間もない時代に生まれ、
家業の旅館とともに
2019年に70歳を迎える
温泉宿の女将がいます。
古希の女将が見た、
昭和、平成、そして令和の宿とは。
「昔ね、婚約中にねここへ
昭和40年、39年」
こちらのご夫婦、この宿に来るのは実に55年ぶり。
迎えたのは女将の加藤愼子(ちかこ)さん。
夫妻は昨夜、宿の懐かしさから、
思い出話に花を咲かせたそうです。
「本当 昔のままです」
「ガラス窓も割れてないのは当時のまま」
(女将 加藤愼子さん)
訪れる客の、思い出そのままのたたずまいを残すのが、
湯谷温泉で70年続く旅館「はづ別館」。
幡豆町から移り住んだ初代が開業した当時の姿を、
今にとどめています。
湯谷温泉の近代的な発展は大正12年、
飯田線・湯谷駅ができたことに始まります。
当時、駅に隣接したホテルがあり、人気でした。
次第に宿の数も増えていきました。
はづ別館ができたのは昭和24年。
その年、女将さんは宿の娘として生まれ、
人生を宿とともに過ごしてきました。
「私が物心ついたときが湯谷温泉も
一番元気だったころだと思う」
(女将 加藤愼子さん)
「幼稚園に行く頃ですと、
宇連ダムが工事をしておりまして、
その方たちがよくご利用いただいたので、
そこに母と一緒に集金に行ったそうなんですよ」。
(女将 加藤愼子さん)
当時は戦後の復興期。
戦後日本を再建していく人たちが
湯谷温泉で英気を養ったのです。
高度成長期になると旅行がブームに。
客層もレジャーで訪れる人に変わっていきました。
22歳で結婚。
ご主人と一緒に宿を
切り盛りしていくことになります。
「主人もまだ若かったので力もお金もない
はづ別館だけをほそぼそと続けて
よその旅館が大きくなるのを
うらやましいなあって思っていた」
(女将 加藤愼子さん)
小さな宿だからこそ、
思い切ったアイデアで特徴を出そうと、
宿泊代金を客に決めてもらうことに。
バブルの頃には、変わらないたたずまいと、
自然に囲まれた宿の価値を、
想像以上に評価してくれた
羽振りの良い客もいたといいます。
「一番高い方が6万円
2人で12万円お支払いいただいた」
(女将 加藤愼子さん)
そして平成から令和へ。
最近では一人旅の増えているそうです。
「今日は3組 1人客が
今まで若い男性の1人客は少なかったが
自然の中でゆったりしたい人が多い」
(女将 加藤愼子さん)
変わらないままの宿に、
新たな癒しを見出す人もいれば、
遠い記憶を呼び覚ます人も。
婚約以来55年ぶりに訪れたという
こちらの夫婦は...。
「(当時)雨が降ってきて 夕立です
それで飛び込んだのがこの宿だった
泊まらない手も握らなかった」
55年ぶりの宿との再会は、
若い日々を思い出させたようです。
「ありがとうございました
いってらっしゃいませ」
70年変わらぬ宿が、人をいやします。