2024年11月に行われた名古屋市長選挙は、前職市長の後継候補と4党相乗り候補が激しく対立し注目された。その選挙戦に単身乗り込んだ男性がいた。水谷昇さん61歳。特に知名度があるわけでもなく、組織の後ろ盾があるわけでもない。自ら「泡沫候補」と認める水谷さん。当選する可能性は限りなく少ない。それでもなぜ水谷さんは立候補するのか?ひとりぼっちの選挙戦を追いかけた。
名古屋市長選挙の告示直前、名古屋市政記者クラブで記者会見を開いた男性がいた。名古屋で外国人観光客向けの旅行会社を経営する水谷昇さん(61)。出馬表明だった。
「何者でもない61歳のおじいさんでも名古屋市を変えていきたいという気持ちがあれば立候補して市民の皆さんに判断を仰げることを示したい」
水谷さんの公約の柱は「名古屋に東京ディズニーランドや大阪のユニバーサルスタジオのような巨大テーマパークを誘致する」こと。コロナ禍が明けてインバウンドが復活する中、名古屋はほかの主要都市に比べて外国人観光客の流入が圧倒的に少ない。そんな名古屋に巨大テーマパークを誘致して観光産業を盛り上げたい。その訴えに賛同してくれる人はきっといるはず。それが出馬の理由だった。
しかし知名度もなければ組織の後ろ盾もない水谷候補に対する世間の目は冷ややかだった。
たくさんの支援者に囲まれる主要候補を横目に、水谷さんはひとり街頭に立つ。しかしどれだけ訴えても誰も見向きもしない。メディアでの取り上げられ方も主要候補と比べれば圧倒的に差があった。
25歳になって供託金の240万円さえ用意できれば原則誰もが立候補できる市長選。しかし、「有権者の選択肢」になれるかどうかは別の話だった。それでも水谷さんが街頭で訴えを続けるのは一体なぜなのか?
早見沙織