「何、これ?」
後部座席に座った妹が、私のカード類がちらばっているのを見つけた。クレジットカードや社員証、会員証、図書館の貸し出しカード。きのう財布からこぼれ落ちたらしい。きのう車の中で財布を取り出したのは、高速道路の料金を払った時だけである。そういえばポケットから財布がなかなか出なくって滅茶苦茶慌てたっけ。あの時ぶちまけたに違いない。それにしてもこれだけ派手にばら撒いたのに全く気付かなかったとは!どれほど運転中の私がテンパってるかを雄弁に物語るエピソードといえよう。
助手席の父はもちろん、後部座席の母と妹にもしっかりとシートベルトをしっかりと着用してもらい、車を発進させる。さわやかに晴れ渡った秋の休日。絶好のドライブ日和だったが、車内には緊張感が充満しており、ちっとも家族の会話が弾まない。
墓には10分ほどで到着した。大した距離ではなかったので、特に事故もない。途中母から「ヘタクソ!」、父から「うわっ!」という声があがったくらいだ。
墓参りの後もドライブは続く。赤や黄色に彩られた山や高原をめぐった。山道の急カーブで突然対向車が現れると本当にびっくりしてしまう。軽く運転席から尻が浮くぐらい飛び上がるので、私の動揺ぶりは一目瞭然であり、父母妹に与えた不安も相当なものだったろうと思う。CDはきのうのままだったから、3人の胸にも「泣い ちゃいそうだよ」という歌声が刻み込まれたかも知れない。それでも最後まで付き合ってくれるのだから、肉親というのはつくづく有り難い。
3時間ほどドライブして祖父の家に戻った。三連休の中日だったが、仕事の都合で私だけ先に帰らなくてはいけないのだ。
今度は一人で車に乗り込み、祖父の家を後にする。おや?走り出した瞬間に、見送ってくれた親たちの表情がおかしな変化を見せたような気がするぞ。何でだろう?何か俺、発進の時にやらかしたのかな?心当たりは・・・・・・しばらく走って気が付いた。
「あれえ?この道はどこに向かってんの?」
おしまい