『弟の結婚式ついでに北海道旅行 その4』
弟の結婚式が終わり、私は家族と別れ旭川に泊まった。翌日どうしても行かなくてはいけないところがあったのだ。旭山動物園である。
「ペンギンにエサの魚をやるときは必ず頭の方から食べさせます。尻尾のほうから口に入れるとヒレやウロコが逆向きになってノドにひっかかってしまうんです」
動物にエサをやるときには飼育係の人が拡声器を持っていろいろと解説してくれる。また、写真やイラストをたくさんつかった手書きの解説ボードなどもいたるところに展示してあって、こちらはずっと「へえー」とか「ふーん」とか言いながら回ることができる。
エゾシカの檻の前には実際に手に取って重さを感じることが出来るように、本物の角が展示してあった。1200gあるそうだ。この角は敵と戦うためのものではなく、繁殖期にメスをめぐってオス同士でケンカするためだけのものである。そのためだけに2本合わせて2400gを頭に乗っけているのだ。
片方の角が抜けたシカの写真も展示してあった。シカの角は繁殖期が終われば根元からポロリと落ちるのだが、片方ずつ落ちるので、残りの一本が落ちるまでこんな状態で我慢しなくてはいけない。メスのためにオスは大変な苦労をしているのだ。
「本当によく広げてるねー。きのうはそれほどでもなかったんだけどねー、クジャクの気持ちはわからないよ」
クジャクの檻の前では飼育係さんがお客さんに話し掛けていた。こういうフレンドリーさもなかなか他の動物園にはないだろう。
「この羽根は繁殖期が終わると全部抜けちゃうんですよ」
クジャクの飾り羽根もシカの角と同様、メスを手に入れることだけが目的のものだ。全くバカバカしい。あんな目立つものつけていたら敵にだって見つかりやすくなってしまうのに。
ただ羽根を広げるだけではない。メスが通りかかるたびに羽根を真正面から見てもらえるようにメスの方向に体を向ける。走って追いかけたりすることはなく、ねっとりと熱い視線でメスを見つめながら、ひたすら羽根を見せびらかすのだ。中には羽根をブルブル小刻みに震わせてアピールしているヤツもいたが、メスたちはちっとも関心を示さない。プイと横を向いていってしまう。そのたびに「また振られたわよ」とお客さんから笑い声が起きる。
最初は私も笑っていたが、ふと「これだ!自分に欠けているものは!」と思った。振られても振られても、周囲に笑われたって気にせず女性に向かっていくガッツ。クジャクだ!クジャクになるのだ俺!そして大空へ羽ばたこう!旭川の大地に誓ったのだった。