「野生動物の目はライトに反射して光りますから、注意して外を見ていて下さい」
ガイドさんに言われて、バスの窓から暗闇にじっと目を凝らす。エゾシカ、キタキツネ、ヒグマがいつ出てくるかわからないというドキドキ&ワクワク感。とくにキタキツネへの期待は大きい。いつ現れてもいいように「ル」の口で待機だ。
まず最初に姿を見せたのは、りっぱな角を生やしたエゾシカだった。デカイ。
「エゾシカの平均体重は120kgですが、これはもっとありますねー。少なく見積もっても121kgはありますねー」
ガイドさんはこういうベタな肩すかしを得意としていた。
「きょうは曇り空で残念でしたねー。晴れていれば満天の星空を鑑賞して頂けたんですけどねー。待ってれば晴れると思うんですけどねー・・・・3日ぐらい」
星空のために3日は待てないが、キタキツネのためなら待ってもいい。ひたすら暗闇にその姿を捜す。みんなそんな感じで車内はシーンと静まり返っている。
「前方見て下さい。いましたねー、キタキツネです」
いたっ!小さい。猫ぐらいの大きさの子狐が道路の真ん中をちょこまかと走っていた。バスの存在を気にもとめていないようだ。逃げもしないが、かといって寄ってくるわけでもない。
「ここの動物たちはこの時間帯にやってくる車はエサもくれないし、かといって乱暴もしないってことがわかってるんです」
いたってマイペースな子狐とは対照的に、車内の人間たちはシャッターチャンスを逃すまいと大わらわだった。野生動物はわりと光に対しては鈍感で、フラッシュをたいたりしても逃げ出したりしない。そのかわり音に対しては敏感で声を出すのは控えてくださいと言われていた。残念ながら「ルールルル」とも言っちゃいけなかったのだ。
それでも車内の女性客たちは「カワイイっ!」を連発していた。ガイドさんからは「野生動物が見つかるまではおしゃべりしていてかまいませんが、野生動物の姿が見えたら静かにして下さい」と言われていたのに、まるで逆になっていた。まあ、仕方ないだろう。36歳、男の一人旅の私でさえ油断すると「カワイイ」っ!と声を出してしまいそうになるほど、子狐は可憐だったのだ。
さて、残るはクマだ。