前回、小学一年生の時の夏休みの絵日記について書いた。私は、海に行った日の日記だけしか記憶していなかったのだが、親戚の一人が別の日の一文を記憶していた。それは・・・
「おばあちゃんが魚を殺しました」
祖父母は旅館を経営していた。名物はコイ料理で、祖母はよくいけすから取り出した大きなコイを捌いていた。祖母はコイを俎板に乗せるとまず、分厚い出刃包丁の背で脳天に「ダーン!」とチョップを食らわすのだった。コイを気絶させてから調理にかかるということだったが、あの「ダーン!」は本当に恐ろしく、「魚を捌く」という言葉も知らなかったため、「おばあちゃんが魚を殺しました」という記述になったものと思われる。
前回書いたように、祖父は私にみたままの絵を書くことを要求した。「おばあちゃんが魚を殺した」絵はさぞおどろおどろしいものだっただろう。
コイのいけすは、泥臭さを取り除くためにしばらくコイを泳がせておくためのものなので、とてもキレイな井戸水が使われていた。夏にはそのいけすにスイカを入れて冷やしておくのだった。あのスイカのうまかったこと。
「こんなにうまいもの生まれて初めて食べた!」
幼い私は親戚がたくさんいる前でこう何度も大声で叫び、両親は「ふだんあんまりいいもん食わせてもらってないんじゃないか?」と親戚たちに言われ、たいそう恥ずかしい思いをしたそうだ。
昔の私は無邪気で可愛かったのである。何でこんなにひねくれちゃったんだろう・・・。