5月5日の子供の日、名古屋・栄のオアシス21で行われる『キッズフェスティバル』というイベントの中で、テレビ愛知のアナウンサーが朗読劇をやることになりました。
子供向けのイベントということで『猿蟹合戦』を面白くアレンジした台本を書いたのですが、アレンジし過ぎてとても子供向けではなくなってしまい、ボツになりました。
子供向けとしてはふさわしくないけれど、大人の皆さんに読んでいただくぶんにはよろしかろうということで、ここでその幻の台本を発表していこうと思います。
私のイメージした配役は以下の通り。
相澤・・・ナレーション、クリ
高木・・・サル、ウス
水口・・・カニ、牛糞
改野・・・子蟹
荒井・・・ハチ
私が猿蟹合戦を書くにあたって、まずひっかかったのが、「なぜカニはむざむざサルにオニギリを奪われてしまったのだろうか?」ということでした。
その問題をクリアした結果、こんな書き出しになりましたよ。
では相澤版・猿蟹合戦、はじまり、はじまり!
あるところにお腹をすかせたカニがいました。
カニはもうすぐお母さんになるので、お腹の中にいる子供のためにも栄養をつけなくてはいけないのに、ちっともエサが見つかりません。
丸三日もエサを探しつづけ、やっと道の上にオニギリが落ちているのを見つけました。
普通のオニギリではありません。いや、普通といえば普通ですが、それはコンビニのオニギリだったのです。
カニ「私の大好きなツナマヨネーズだわ!」
カニはオニギリにとびつきました。
カニ「えーと、賞味期限は5月3日・・・・今日は5月・・・・えーい、見なかったことにしよう。頂きまーす」
丸三日何も食べていないのですから、しょうがありません。
でもカニはなかなかオニギリが食べられません。
カニの手はハサミですから、おにぎりのビニールのパッケージがうまくはがせないのです。
カニ「ああん、もう、イライラする。こうなったらハサミでバラバラに切り刻んでやる」
そこへサルが通りかかりました。
サル「バラバラに切り刻んでしまったら、それはもうオニギリじゃなくなっちゃいますよ。ちょっと貸して御覧なさい。このオニギリのさきっちょのマル1って書いてあるところを上から下に引っ張って、ビニールを左右に引っ張ればパリパリの海苔がご飯に巻けるんです。・・・ああああ!」
カニ「どうしました!?」
サル「海苔の角のところがビニールに残ってしまったー」
カニ「何だ、いいですよ、それぐらい。ありがとうございました」
サル「どういたしまして。では頂きます。モグモグモグ」
カニ「ちょっと何してんの!あーあ、食べちゃった・・・・」
サル「ああっ!本当だ!ビックリした」
カニ「ビックリしたのはこっちですよ」
サル「すいません。私、食べ物が目の前にあると食べてしまう習性があるんですよ。しょせん野生動物ですからねえ」
カニ「一体どうしてくれるんですか!私もう三日も何も食べていないんですよっ!」
サル「ええーっ!そうなんですか!そんな風には見えなかったものですから、つい・・・・。それは悪いことをしましたね。ではお詫びにこれを差し上げましょう」
カニ「何ですか、これは?」
サル「柿の種です」
カニ「そんなもの食べられやしないじゃないですか!」
サル「そりゃ今は食べられませんよ。でもこの種を蒔けば、やがて柿の実がたくさんなります。そうなったら柿食べ放題!しかも毎年毎年実がなるんですから、もう食べ物の心配をしなくていいんですよ。オニギリを食べてもお腹が膨れるのはほんのいっときのこと、それに引き換え柿は一生ものですよ。わあ、得しましたねえカニさん。それではさよおなら」
なんと口のうまいサルでしょう。まるでアナウンサーのようです。
すっかりサルの口車に乗せられたカニは種を土に埋め、水をやって大事に育て始めました。
カニ「早く芽を出せ、柿の種。出さぬとハサミで切っちゃうぞ」
柿の種はピクリともしません。カニはもっと本気で脅してみることにしました
カニ「とっとと芽を出さないとどういうことになるかわかってるんでしょうね?このハサミの切れ味試してみるかい?」
すごい迫力です。
柿の種はそっこうで芽を出しぐんぐんぐんぐん伸びて、じゃんじゃん実をつけました。
ところが、木に登れないカニは実を取ることができません。
困っているとそこへまたサルが現れました
サル「おやおや、お困りのようですねー。木登りなら任せて下さい」
サルはスルスルと木に登り、おいしそうな柿をパクパク食べ始めました。
カニ「何をしてるんですか!それは私の柿ですよ」
サル「前も言いましたよね。私、食べ物が目の前にあると食べちゃうんですよ」
カニ「ああん、もう。じゃあ少しぐらい食べてもいいですから、いくつかこちらにも柿を投げて下さいよ」
サル「投げればいいですか?じゃあ、このへんのまだ青いヤツをもいで・・・・。これでもくらえ!」
サルはいきなり柿をカニに投げつけました。
カニ「痛いっ!こんな硬い実を思い切り投げつけるなんてひどいじゃないですか!」
サル「いつかのオニギリの仕返しですよ」
カニ「何を言ってるんですか!オニギリを取られたのはこっちでしょ!」
サル「あのオニギリ、賞味期限切れてたでしょ。あのあとお腹壊して大変だったんですから。よくもそんなものを食べさせてくれたな、えいっ!」
カニ「痛いっ!」
つづく