松本ぼんぼん
8月の第一土曜の夜8時。
松本駅に降り立つと人がやたらに多い。
何か特別な日のようだ。
改札を出たところにはこんな横断幕があった。
「響かせよう 松本ぼんぼんの歌と踊りを」
一体何なんだ?松本ぼんぼんって!
城下町に人があふれていた。
「松本ぼんぼん」は夏祭りだった。
揃いのTシャツやはっぴを着た人たちが
♪ボンボン松本 ボンボンボーン
という歌声に合わせて大通りを踊りながら練り歩いていた。
運動量の多い盆踊りのような振り付け。
昔のアニメの主題歌に演歌が混じったような曲調。
おお、この歌声には聞き覚えがある!
魔女っ子メグとかキューティーハニーの主題歌を歌っていた前川陽子さんだ。
♪シャランラシャランラヘイヘヘイヘヘイとかハニーフラッシュ!と歌い上げていたあの声が
♪ボンボン松本 ボンボンボーンと熱唱しているのだ。
同じ曲が繰り返し流れ、踊り手たちはほぼ休みなく踊り続けている。
すごい熱気だ。
松本市の人口は24万人。見物客はそれと同じくらい。
2万人を超える人が踊り手として参加するそうだ。
松本市民の1割が踊っていることになる。
ぼんぼんが終わったところで、「日本酒」という看板の出ていた店に入った。
店のメニューには全国の銘酒が並んでいたが、肝心の信州の地酒が見当たらない。
仕方なく、長野とは関係のない日本酒をちびちび飲んでいたら、酒瓶を抱えた店のご主人が私の前に座り、こう言った。
「うちは信州の地酒はわざわざメニューに書いていないんですよ。これ、御代は頂ませんから、どうぞ」
信州の地酒はないんですか?などとは一言も言っていないのに、なぜ?
「お客さんの顔を見れば、大体のことはわかりますよ(ニヤリ)」
すごい!何でもお見通しだ。これぞ接客のプロだ。
ご主人は私のテーブルに腰を落ち着け、自分のおちょこにも酒を注ぎはじめた。
2人でとりとめもない話をしながら呑んでいたら、
お店に出ていたご主人の奥さんがご主人に声をかけた。
「あんまりいたら、おじゃまだよ」
「いいんだよ!この人はさびしいんだから!」
さすがご主人、何でもお見通し。でもそんな大きな声で言わなくても・・・・