コスプレチャンピオンシップの翌日の夜、海外コスプレイヤーたちを招いてフェアウェルパーティーが催された。
パーティーが始まって1時間後、私はステージの上に立ち、海外コスプレイヤーたちに英語で呼びかけた。
「昨夜は素敵なパフォーマンスをありがとう。今夜は我々の番です。Are you ready for the show?」
YEAH!
盛り上がる海外コスプレイヤーたち。
「Are you ready for the show?」はシンガポールのコスプレイベントで司会の人が使っていたフレーズをそのまんま借用したものである。
さらにもう一度。
「Are you ready for the show?」
YEAH!
もっと大きな反応が返ってきた。
「Are you ready for the show?」を2回繰り返すのもシンガポールで学んだテクニックだ。
続けて「We are TV Aichi band!」
歓声の中、バンドのメンバーがステージに上がってくる。
盛り上がっているところで「メンバーのほとんどはコスプレサミットのスタッフです。忙しくてあまりバンドの練習が出来ませんでした」と早速のいいわけ。
「つまらないものですが・・・」と前置きして贈り物をするジャパニーズスタイルを海外コスプレイヤーに味わって頂く。
「中でも私はトランペットの初心者です。これはBIG CHALLENGEなのです」
初心者といっても「大人の音楽教室」に通い始めてもう4年目になる。
4年目にしてやっとバンド入りを認められたのだ。
トランペットは本当に難しい。
サックスなんかは手にしたその日からキーを指で押さえれば全ての音が出るらしいが、トランペットはそうはいかない。
相当訓練しないと、高い音が出ないのだ。
高い音を出すためのポイントは3つ。
口の形、息の強さ、メンタル。
メンタルが弱いんだよねえ・・・。
トランペット上達のために寺に修行に行こうかと思ったくらいだ。
それなのにわざわざ「BIG CHALLENG」などと注目を集めるようなことを言ったのには理由があった。
最初の曲にはトランペットのソロパートがあり、私はそこで2列目の自分のポジションから飛び出して、最前列のボーカルマイクに向かって演奏することになっていた。
そこで上手く吹ければ拍手喝采だし、しくじったとしても笑いが取れる。そう思ったのだ。
この曲はインストロメンタルなので最前列のセンターにはボーカルマイクのスタンドがあり、その前には一応鈴木が立つことになっていたが、最初のカウントダウンと途中で「レッツゴー」などとお囃子を入れるくらいしか鈴木の出番はない。だからこそ可能になったプランだ。
それなのに、ああそれなのに。
演奏が始まり、いよいよ2列目から飛び出した私が見たものは・・・・・・
スタンドから取り外され、鈴木の手に握られたマイクだった。
マイクを手にぶら下げ、気持ちよさそうにリズムに身をゆだねている鈴木。全く後ろを振り返らなかったので、私のあたふたぶりにも気づかず終いだった。
バンドの演奏が終わり、控え室でうまそうにタバコをくゆらせている鈴木の背中に呼びかけた。
「その様子では、自分が犯したミステイクに全く気づいていないようだな」
「えっ!何すか?」
「マイクをスタンドから取り外してたから前に出られなかったじゃないか!」
「しまったー!・・・・相澤さん、そういうの根に持つからなー」
「しまったー」のポイントはそこか!
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