木道の上をズンズン歩いていくとエゾシカがいた。夜のツアーの時と違って、夏毛の模様がくっきりと見える。白い斑点がいっぱいついた、バンビのような模様、いわゆる鹿の子模様だ。でも、何でこんな模様がついているんだろう?トドマツの林の中でガイドさんが教えてくれた。
「みなさんのシャツを見てください。木々の葉っぱの間から差し込んでくる日の光が当たっているところが、白い斑点のようになってますよね。鹿の夏毛はこの模様です。保護色になっているんです」
トドマツの中にはキズがついたものがある。
「これはシカが角を磨いたあとです。角をするどく研いで、なおかつ松脂のワックスでピカピカと光らせることが出来るんです」
松の幹の肌にはプクプクしたところがあり、そこを押すと松脂が出てくる。松脂は森林浴の香りがする。フィトンチッドの香りだ。人間にとってはとてもさわやかな香りだが、他の植物にとっては恐ろしいものだそうな。
「フィトンチッドは『植物を殺す』という意味の言葉です。フィトンチッドを出すことによって、ここにトドマツ以外の木々が生えないようにしてるんです」
木についたキズからこれだけ話が膨らむのだ。自然は楽しい。
ヤマナシの木には幾筋も深々としたキズがつけられていて、かなり高いところまで続いていた。クマが実を取って食べようと登ったあとだという。
「クマは滅多に遭遇することがないので『本当にいるの?』と聞いてくるお客さんもいらっしゃいますが、これがクマがここにいるという証拠です」
クマは見たいけれど、あの深々としたキズを見たら、やはり恐ろしい。ガイドさんも遭遇したことはあるけれど、動転してカメラのシャッターを押すどころではなかったそうである。
つづく