翌日も朝から日本語ガイドつきツアーに参加した。東南アジアの最高峰、世界遺産にも登録されているキナバル山の中腹にあるトレッキングコースを歩くツアーである。
車でキナバル山に向かう道すがら、何匹も首輪をしていない犬を見た。逆に、首輪をした犬は一匹も見なかった。現地ガイドさん(わけあって名前は書けない)によると、マレーシア国民の7割はイスラム教徒であり、イスラム教で犬は汚らわしい動物とされているために、ペットとして飼う人があまりいないそうである。そんな犬を見かけるたび、ガイドさんが言う。
「あの犬はおいしそうですねー」
汚らわしい動物って言っておきながら、食べちゃうんである。おいしそうですねーと言われても、相槌は打てない。
「犬を食べると体があったまるんですよ」
ガイドブックに載っていない情報が聞けるのは旅の楽しみではあるが、まさか熱帯で、体があったまる食べ物情報を聞くとは思わなかった。
「犬もおいしいけど、猫の方がおいしいです」
さらにガイドブックに載らない情報提供が続く。
「テングザルと同じくらいおいしいです」
ええっ!テングザル食べちゃったの!!!
「見つかったら、懲役10年ぐらいになりますね。でも、田舎の方じゃ見つからないから」
きのう参加したリバーサファリで見た、人間への敵意剥き出しのテングザルの顔が思い出された。あんなに怒ってたのもこういうことがあるからだったのだ。ガイドさんは田舎の友達の家に遊びに行ったとき、騙まし討ちのような形で食べさせられたと話していたが、やはりここに彼の名前は記さないでおこうと思う。
キナバル山に向かう途中、寄り道してラフレシアを見に行くことになった。ラフレシアは世界最大の花として知られているが、いつ、どこで咲くのかわからないため、幻の花とも呼ばれている。その幻の花がキナバル山の近くの民家の裏庭で咲いたというのだ。こういう情報は現地のツアーアイドの耳にはすぐ入る仕組みになっているらしい。
20リンギット=600円の見物料を払うと、裏山に案内された。裏山に入ってすぐの林の中で直径40cmの花が咲いていた。もともと一週間しか咲かないのに、ちょっと触れただけで弱ってしまうため、周囲を紐で囲われ、上には屋根までつけて守られていた。一人20リンギットでも、ひっきりなしに見物客が来ていたから、かなりの稼ぎになるのだろう。ラフレシアは看板娘として「蝶よ、花よ」と大事にされているのである。ラフレシアの場合、蝶ではなくハエがたかっていたけれども。ラフレシアはハエに花粉を運んでもらうのである。そのために腐った肉のニオイでハエをおびきよせる。見てみたい花ナンバー1ではあったが、プレゼントされたくない花ナンバー1でもあるのだ。
この日の目的地であるキナバル国立公園では、食虫植物ウツボカズラや、大小さまざまな形をしたランや無花果などを見た。ここは熱帯植物から高山植物まで顔をそろえる植物の楽園なのである。
また、公園内のギャラリーには、世界最大のバッタ&セミの標本や、スローロリスなどボルネオに暮らす動物たちの剥製が展示されていた。ガイドさんが説明を加えてくれる。
「この犬ぐらいの大きさの鹿はマメジカといって、世界で一番小さい鹿です。おい しいです」
また、ガイドブックに載らない知識が増えてしまった。
つづく