尾道ロケ地めぐりのクライマックスは、御袖天満宮の石段だ。この石段を「転校生」の主人公、一夫と一美が抱き合う形で転げ落ちて、二人の心が入れ替わり、「オレがアイツで、アイツがオレで!?」になってしまうのである。
石段を登ったところで、若い女性観光客二人組に「シャッターを押して下さい」と頼まれたので、あっさりとシャッターを押し、「じゃ、こちらのシャッターも」とお願いする。
デジカメを渡して、われわれ3人は中段まで走って下りる。そして、どーんと寝転がった。石段を転げ落ちるシーンを再現しようというのである。いい大人が石段に思い切って横になれるのも3人連れだからだ。こんなこと一人旅だったら絶対できない。3本の矢の教えをこんなところで実践するわれわれだ。
石段の上からシャッターを押してもらうと、すぐさま駆け上がり、写真をデジカメの画面で確認する。
「顔がよくわからないなー。すいません、もう一枚」
再び同じ位置で寝転がり、顔の向きに注意しながら撮ってもらう。また駆け上がって確認だ。
今度は石段の最上段で、上体をのけぞらせ、バランスを崩してこれから転げ落ちるというポーズを取る。何だか「転校生」というより「マトリックス」みたいなポーズだった。またシャッターを押して貰って、画を確認する。
「おまえの左足が落ちてねえんだよー!」
大久保が山根にダメ出しされた。石段を転げ落ちそうになっているように見えないというのである。特に左足が。55段の急勾配の石段の最上段で後ろにのけぞるのはかなり怖いが、リアリティを追求してもう一枚。思い切りのけぞったところ、後ろの石段が隠れてしまったので、カメラを縦にしてもう一枚撮ってもらった。
たった一回シャッターを押してもらった引き換えに、5回もシャッターを押すはめになった通りすがりの観光客には申し訳ないが、われわれはテレビマン、いい画が撮れるまで決して妥協できない運命(さだめ)なのだ。
下の方を見たら、別の女性二人組が転げ落ちるポーズで写真を撮っていた。あの人たちも仲間だ。やはりみんなここではそういう写真を撮りたいのだ。われわれが行動に移したことで、「恥ずかしがらずに思い切ってやっていい」という温かい雰囲気が出来たのである。そういった意味で、われわれはこの女性たちの思い出作りのお役に立てたとも言えよう。
つづく