金沢に到着し、早速一軒の居酒屋の暖簾をくぐる。テーブルに並ぶ海の幸。さすがに日本海の荒波にもまれてきた魚たちだ。身がひきしまっている。恐るべき日本海のひきしめ効果よ!一方、食べている私たちの顔は緩み、全身から力が抜けていく。地酒もすすみ、山根がみるみる赤くなっていく。「君は何?シャア専用?」と訊きたくなるほどの赤さだ。
リラックスしまくりの私と山根だったが、向かいに座っていた大久保だけは、何となく身構えている様子だった。大久保は前回の旅で名物のワッフルを口にした際、不用意に「まいうー」と口にしてしまい、「お前のリポートからは何も伝わってこねーんだよ!」と山根から激しくダメ出しされた。別にリポーターじゃないのに。しかもその様子は、私の手でおもしろおかしくブログ上で発表されてしまっていた。今回はその二の舞を何としても避けたいらしい。慎重に言葉を選び選びコメントしていく。
「刺身はどれも身が締まってますよね。それでいながら脂がのってるんですよねー。この白ガスエビは初めて食べましたけど、甘味がありますね。歯ごたえのしっかりした甘エビという感じですね。ホタルイカの一夜干しは、内側の内臓がまだ生っぽくて、その味が後をひきますねー」
その努力は買ってやりたい。しかし・・・・・
「お前のリポートからはちっともおいしさが伝わってこねーんだよっ!」
案の定、山根のダメ出しが待っていた。
「表情がちっともおいしそうじゃねーんだよ!!」
そうなのだ。コメントを考えることに一生懸命になりすぎて表情がまるで硬くなってしまっていたのだ。下手なリポーターが陥ってしまいがちな失敗である。
「大久保はまだまだスキルアップが必要だ」と語る山根。自分が東京へ行ってしまう前に、何かを残しておきたいという気持ちなのだろうか?・・・・といっても、広報部員である大久保にテレビカメラの前でリポートをする機会はどう考えてもないんだけれども。
ちなみに私がテレビを見ていて、今までで一番おいしそうだなーと思ったリポートは、リポーターが口に入れた瞬間に「こ、これは・・・・」と絶句して後ろにのけぞるというものである。グルメリポートにはやはりコメント以上に表情が大切なのだ。
そして、そのリポーターが何を食べていたかというと・・・・・我々が明日の夜食べる「越前かに」なのだった。
つづく