奈良県明日香村に石舞台古墳の桜を観に行った。予想より桜の数は多くなかったが、タイミングはベストだった。満開である。
石舞台に使われている石のうち、一番重いものは77トンもあるそうだ。明日香村にはこの石舞台をはじめ、巨石でつくられたさまざまな古代遺跡が残されている。
『 猿石』、『亀石』、『鬼の俎板』や『鬼の雪隠』などというものもある。『俎板』は板状、『雪隠』が凹状の巨石である。その昔、鬼がこの俎板で人間を料理して食べ、雪隠で用を足したというのである。実際は『俎板』は古墳の石室の床、『雪隠』は壁だったらしい。
今でも明日香村には、鬼が用をたしていそうな風情、日本昔ばなしの雰囲気が色濃く残っている。本当にのどかなところだった。
夜は打って変わって現代の都会の喧騒、っていうか、ドンチャン騒ぎに身を投じた。名古屋に帰って、鶴舞公園で会社の人たちと花見の宴である。宴もたけなわというところで、100円ショップで買い揃えたという仮装グッズが参加者に配られた。キンキラキンのカツラやウサギの耳などをみんなで被っていたら、見知らぬ外国人にカメラを向けられた。ようこそ、不思議の国・日本へ!その外国人にもチョンマゲのカツラをかぶせてあげた。喜んでくれた。(たぶん)
その後カラオケボックスへ。そしてさらにもう一軒カラオケボックスへ。なんでわざわざカラオケボックスをハシゴしたのか?まるで意味がわからない。
4月8日
昨夜カラオケに参加していた女の子から「きれいなムーンウォークでしたよ」と言われたが、全く憶えていない。何してんだ、俺・・・・・。
4月9日
英会話教室へ行った。エイドリアンという男性講師相手に桜談義をした。
「桜の美しさは他の花の美しさとは違うんだ。怖いぐらいキレイっていうか・・・。桜の樹の下には屍体が埋まってるって書いた小説家もいたしね。梶井基次郎って人だけど。この人の小説で一番有名なのは、本屋にレモンを置いてくるヤツだけどね」
「本屋にレモン?何で?」
「わかんない」
「わかんないの?」
「ごめん。あと、もう一つ坂口安吾っていう人が書いた『桜の森の満開の下』っていう小説もあって、これに出てくる女が怖いんだよ。死体の首で遊んだりするからね。で、その女が満開の桜の森で鬼に変身するんだ」
「女の鬼の能面を見たことあるけど・・・」
「般若だね?」
「あれは怖かったなー。それに比べると男の鬼って怖くないと思わない?」
そういわれてみればそうだ。男の鬼って何となく滑稽な感じがする。『鬼の雪隠』だって相当間抜けな感じだもんなー。デジカメを持っていたので、エイドリアンに鬼の雪隠の写真を見せた。
「OH!デーモンズ トイレット!」
「いいリアクションだねー。→のボタンを押せば、他の写真もいろいろ見られるよ」
次々と明日香村の風景写真を見ていくエイドリアン。英語で説明を加えていく私。ちなみに『鬼の俎板』は「demon’s chopping board」だ。
「これは・・・・君かい?」
いつのまにか写真が鶴舞公園の宴のものに変わっていた。見せる気なかったんだけどなー、油断した。
「何で、バナナの房を被っているんだい?」
「・・・・・酔っ払ってて・・・・」
「酔うとバナナを被るのかい?それは日本の風習?」
「いや、風習じゃないよ。ただ何となく、そこに手ごろなバナナがあったから・・・・」
「日本人はホント、普段は行儀いいのに、酔うと壊れるよね。バナナだの、レモンだの、よくわからないなー」
「梶井基次郎は別に酔っ払ってレモンを本屋に置いたわけじゃないと思うけど」
「あと、酒飲むと裸になっちゃう人とかいるじゃない?」
「この間も友達の結婚式の2次会で、素っ裸に前掛けだけつけて、あれ英語でなんていうのかな?音楽に合わせてイスの周りをグルグル回って、曲が止まったところでイスを取りあうゲーム・・・・」
「ああ、musical chairだね」
「へえ、イス取りゲームってmusical chairっていうんだ。楽しげな響きだね」
「何で裸でそんなことするんだ?」
「理由はわからないけど、日本には脱ぎたがりな人ってのが結構いるんだよ。某有名アナウンサーは若い頃、銀座のスナックに入る前に素っ裸になって、『あれ?ここ銭湯じゃなかったっけ?』って言って店に入っていってホステスに大ウケだったそうだよ」
「そうだ!銭湯だよ。日本人が人前で裸になることに抵抗を感じないのは銭湯で慣れてるからじゃないかな?」
外国人に訊かれて答えられないことって結構ある。今まで「何でだろう?」なんて考えもせずに、自然に受け入れていたことが外国人の目には引っかかってくるのだ。外国人と話すということは、日本を見つめなおすということでもあるのだ。