今、「あげる」という言葉が勢力を拡大しつつある。
例えば、「ペットにエサをあげる」という言い方が普通になっている。本来は「エサをやる」が正しいのであるが、飼い主の皆さんは「そんな言い方したら、ペットがかわいそう」などとおっしゃるのである。ペットを人間並みに扱う、ペットの人格化が進んでいるのだ。
「太ももの裏側の筋肉を優しく伸ばしてあげて下さい」
私の通っているスポーツジムのインストラクターの間では、こんな言い回しがまかり通っている。筋肉に人格を与えているのだ。いわば、筋肉の一つ一つがきんに君になっているのだ。
さて、37歳になってやっと自動車教習所に通い始めた私だが、ここでも変なところで「あげる」が出てくる。
「出席簿に名前を書いてあげて下さい」
「テキストの大事なところに印をつけてあげて下さい」
教官たちは出席簿やテキストに人格を与えているのだ。そのくせ生徒に対しては手厳しい。
「居眠りしたり、サンダル履きで来たら、つまみ出します」
ここでは人間の方が犬・猫のような扱いを受けているのだ。