つづいてみんなで一つの“おはなし”を作るという遊びをした。
「それは2006年のクリスマス・イブだった。大久保のパソコンに一通のメールが届いた」
最初の人がそこまで語る。そこから一人づつ交代で話の続きを考えていき、大久保が幸せになるシンデレラストーリーを完成させるのだ。プレイベートではなかなか素敵な出会いに恵まれない大久保に、せめておはなしの中だけでも夢を見させてあげようという特別企画である。ちなみに大久保のリクエストは「佐藤浩市さん風の男性との運命的な出会い」であった。
さて、おはなしの方は「メールの送り主は誰だかわからないが、待ち合わせ場所だけは指定されており、大久保がそこへ向かう」という形で展開されていった。そして、大久保がその場所に辿り着くと小学校時代の同級生がユリの花束を抱えて待っていたのだった。
なぜ冬なのにユリなのか?それはこの時の語り手があまり花の名前を知らなかったからに違いないが、ユリが登場してしまった以上、次の語り手はユリについて語らなくてはいけなくなる。
「僕はユリの花が好きなんだ」
同級生のこんなセリフで回想シーンが始まり、話は小学校時代に遡る。大久保は夏休みの宿題でアサガオを育てなければいけないのにユリを植えてしまったという話になっていた。どうやったらアサガオとユリを間違えるのだろう?ユリって球根じゃん!
そして同級生は大久保のユリの植木鉢から名札を抜き取ったと告白、小学生の頃から大久保に思いを寄せていたと告げるのだった。・・・・ま、これで何とかユリの花束が登場した必然性が出てきた。前の人が思いつきでユリの花束などと口にしたために、次の人はこんなに苦労するはめになった。ところが、さらに次の語り手にバトンタッチされたところでその苦労は無になった。
「そこにSさんが現れた」
なぜかSさんが出てきたのだ。Sさんとは、今回のメンバー全員が知っているテレビ愛知の先輩社員である。
「Sさんは前髪を切りすぎていた」
それ言いたいだけじゃん!それだけのためにせっかく盛り上がりかけた同級生との恋は隅に追いやられた。
そして次の語り手・仁村の番になると、驚くべきことにSさんが増殖し始めた。隣にいたはずのSさんが振り向くと後ろにいたりするのだ。
「それじゃSさん2人になっちゃってるよ!ちゃんと考えてからしゃべれ!」
仁村の次の語り手は私であり、あんまり変な話になるとその尻拭いが大変なのできつく注意する。しかし効果はなかった。かなり酔いが回っていたのか、もはや仁村は自分が何を口にしたのか忘れてしまうようだった。しばらくすると「車が止まり、中からSさんが現れた」とまたSさんを登場させた。
「3人目!Sさん3人目!」
本気で仁村を怒鳴りつける私だったが、結局「3人のSさん」を処理するというバカバカしい役目を与えられてしまった。
「全部夢だった」
3人を消し去るにはこれしかなかった。
「目が醒めると、クリスマス・イブの朝だった」
振り出しに戻してしまった。ここまでみんなで積み上げてきたストーリーはすべて水泡に帰したのである。
そのあと再び大久保のもとにメールが届き、今度のメールはパーティーの招待状だったという話になったのだが、道すがら謎の物体を拾ったり、Sさんに出会ったりしてちっともパーティー会場に到着しない。業を煮やした大久保本人が自分の番が回ってきたところで「突如、上空にヘリコプターが現れ、そこからするすると縄梯子が下りてきて、佐藤浩市風の男が大久保をさらっていった」と強引に終わらせたのだった。1時間も費やしてこんな終わり方である。
主役交代。今度は私・相澤が幸せになるストーリーをみんなで考えることになった。プライベートでいいことがないのは大久保同様だが、せっぱつまり具合は私の方が上である。それでも夢見ることを忘れない私はかねてから「こんな出会い方してみたい」という理想のパターンを頭の中で描いていたので、自ら最初の語り手に立候補した。舞台は本屋さんだ。
「探していた本を見つけて手を伸ばした瞬間、同時に同じ本に手を伸ばしていた女性と手がぶつかった。『ご、ごめんなさい。もしかしてあなたもこの本を・・・・』」
「うわ、出た!」「すげえありがちー」とみんなに言われたが、このドラマチックな出会いからどんな素敵なラブストーリーが展開するんだろう?期待と興奮で胸を膨らませて、次の語り手にバトンタッチした。
「相澤は本屋にくるといつもトイレに行きたくなるのだった・・・・」
だからそういうのいらないんだって・・・・。
つづく