午後の撮影の中心は私が走るシーンだった。今回のプロモーションビデオには歌ったり踊ったりするシーン以外に、私が日間賀島でマラソンに挑戦するというサイドストーリーが用意されていたのである。
「それはやっぱり『しゃかりきコロンブス』な感じを出したいから?」
私が走る必然性をディレクターである大久保に聞いてみたが、「いや、別に何となく・・・」という答えだった。
たとえ「何となく」という理由であっても、ただ走るだけなら大したこともないのでサラっとこなせるが、今回非常に私にとってつらかったのは、「日間賀島の人々の声援を受けて走る」シーンを撮影することだった。
日間賀島の人々は大変フレンドリーで、頭にカラフルなハチマキを巻き、首の周りにキラキラしたモールを巻いて、ジーンズ短パンにローラースケートという出で立ちの我々に対しても決して冷たい視線を浴びせるようなことはなかった。むしろ「寒いのに大変だね」などと優しく声をかけて下さるのだが、そういう人たちと出会うと、メンバーたちはこの日のために用意しておいた私の顔写真や名前が入ったウチワを渡して、「それを振りながら『伸郎、頑張れ!』って言って貰えませんか?」とお願いするのだった。そして私はウチワを振る人たちの前を走らされるのだ。
こんな恥ずかしいことをしている時は『匿名希望』と相場が決まっているはずなのに思い切り名前を呼ばれることになった。中には「いつも見てるよ!」などと声をかけてくださる方もいらっしゃった。正体バレバレである。
それにしても日間賀島の人々の温かさよ。何百メートルも追いかけてきて忘れ物を届けてくれた人もいたし、荷物を預かって頂いていた宿のご主人も撮影終了後我々が荷物を取りに行くと「風呂入っていきなさいよ」と言ってくれた。
朝10時から夕方4時まで冷た~い風が吹く中続いた撮影。冷え切った体を湯船で温めながら「この島の人々の温かさがなかったら、撮影はもっと厳しいものになっていたに違いない」としみじみ思った。観光客の人たちの視線は冷たかった。港に観光船が着くたびに、我々は冷たい視線のレーザービームを大量に浴びた。むしろそういう反応が普通なんだろうと思うから恨みには思わないけれど、もし島の人々にまであんな冷たい視線を浴びせられていたら、さすがに今回の傍若無人なメンバーであってももっと早々と撮影を切り上げていただろう。
女風呂ではメンバーの女子たちが「パラダイス銀河」を歌っていた。撮影の余韻に浸っているようだ。とても下らないことに一生懸命取り組むという特殊な体験を共にしたことでメンバーの結束はさらに高まった。そのままウチに帰るのが淋しく感じられ、その晩もみんなで焼肉を食べに行った。さんざん海の幸を堪能したばかりだというのに。
数日後、大久保の編集でプロモーションビデオが完成した。見事にどこに出しても恥ずかしい作品になっていた。見た目とやっていることとのギャップ。見ているとカーッと熱くなる。顔ばかりでなく全身が赤面する感じ。日間賀島名物のタコの丸茹でになった気分だった。
おしまい