春休みのディズニーランドは大変な賑わいだった。春なのに盆と正月がいっぺんに来たような騒ぎである。アトラクションの待ち時間は軒並み1時間を超えていた。
ジャングルクルーズのあと、どのアトラクションにも決めかねてただぶらぶらと歩いていたら、待ち時間35分という表示を見つけた。トゥーンタウンの中にある「ガジェットのゴーコースター」である。
ネズミのガジェットがドングリをくりぬいて作ったというコンセプトのジェットコースターなので小さくて可愛らしい、対象年齢も3歳以上というお子様向けの乗り物だが、メディア開発部・岸本(♂)は「これはかなり怖いですって」と本気で嫌がった。
そもそもこの男がジェットコースターが苦手というので我々はスプラッシュマウンテンやビッグサンダーマウンテンに乗るのをあきらめたのだ。これぐらいはつきあってもらうぞと強い態度で強制的に道連れにした。というか、岸本があまりに怖がるので我々は面白くなってしまったのである。
順番が近づくにつれ、どんどん挙動不審になっていく岸本。人間離れした勢いでキョロキョロし始めた。まるでセキセイインコのようである。息づかいも何だかおかしなことになっており、ずっと「スー」とパンクしたタイヤから空気が漏れているような音を出しつづけていた。
「乗ってるお客さん、みんな楽しそうに笑ってるよ。そんなに怖くないんじゃない?」
本当に子供を相手にするように一生懸命なだめても、「うわー、来るんじゃなかったー」と叫び、手のひらで顔を覆うのだった。
いよいよ我々の番が来た。私と山川(♀)が先頭に、そして岸本は私の後ろの席に乗り込んだ。
「ホラーっ!」
急カーブや急降下のたびに絶叫する岸本。あとで訊いたら「ホラ、言わんこっちゃない。めちゃくちゃ怖いじゃないですか!」という意味の「ホラーっ!」だと教えてくれた。
つづく