晩御飯にもんじゃ焼きを食べたあと、カラオケボックスへ。結局、名古屋だろうと、金沢だろうと、日間賀島だろうと、東京だろうとやることは同じなのだった。
本当はそこそこの時間に切り上げて、みんなで東京タワーの消灯を見つめながら絆を深めるはずだったのに、つい歌いたい気持ちに負けて延長を重ね、そんな時間はとっくに過ぎてしまった。
ホテルに戻って翌朝の集合時間を確認する。
「じゃあ、10時で」
結局10時か・・・。いつのまにか早朝の築地行きはナシになっていた。そうだよなー、そうなるよなー、このメンバーなら・・・・。事前のスケジュール表を見てあんなに気を揉んだ自分がバカだったのである。
翌日の行動も全くスケジュール表とは違うものになった。当初の予定では、車を駐車場に置いておいて隅田川水上バスに乗って浅草へ向かうはずだったが、疲労の抜けない我々はもう徒歩での移動が面倒になっていた。かといって車で浅草まで行って遊ぶという気もなく、どうしたもんかねえと軽く途方に暮れていたら、大久保が「横浜中華街に行きましょう!」とナイスアイデアを提案した。横浜なら方角的にも名古屋へ向かう途中で寄る形になってちょうどいい。
「じゃあ、相澤さんの実家に寄れますね」
岸本がおかしなことを言い出した。私の実家は千葉市にある。確かに以前、ディズニーランド帰りにみんなで寄ろうという意見も出ていたが、それは千葉県内の移動だったからそういう話が出たわけで、もはや東京におり、しかもこれから横浜に行くと言っている段階で「じゃあ、相澤さんの実家に寄れますね」という発言が出てくるのはどう考えてもおかしい。どうやら岸本の頭の中では神奈川と千葉の位置関係がまるで整理されていないらしい。
そういえば岸本は関東地方、特に千葉県にまるで疎いのだった。
山川邸でのディズニー・コスプレパレードの時にもこんなことがあった。ミッキーマウスの役をふられた岸本は「僕ミッキー。東京から山川さんを迎えに来たよ」とのたまったである。(ミッキーなのにちっとも裏声を使わず普通の声で)。岸本はディズニーランドが千葉県にあるということを知らなかったのだ。
そんなエピソードを思い出した我々は岸本は一体どれぐらい関東地方に疎いのか確かめてみることにした。
「成田空港も千葉県だって知ってる?」
「ええーっ!マジっすかー!」
「木更津はどこかわかる?」
「えーと、確か・・・ドーナツ化現象のドーナツの部分ですよね」
ドーナツの部分と言われても方角がわからないし、そもそも何県かわかっているのかしらん?
「栃木の方っすかねえ・・・」
栃木って海ないよねー。アクアラインも海ほたるもないがしろだ。
確かに東海地方の人間にとっては木更津はマイナーな存在であり、そこまで求めるのは酷かもしれないが、神奈川県と千葉県、どっちがどっちかくらいは何とか憶えてもらえんじゃろうか?
「どうしても位置関係がピンとこないんすよねー。えーと・・・京浜工業地帯がこっち側にあって、京葉工業地域がこっち・・・。京浜の浜は横浜の浜で、京葉の葉は千葉の葉だから・・・・」
神奈川と千葉の位置関係を整理するためにわざわさ工業地帯を持ち出し始める岸本。ドーナツ化現象につづき社会科用語の登場だ。ドーナツ化現象とか工業地帯を覚える前に都道府県の場所を覚えるのが普通ではないかと思うが、どうだろう?
「千葉と神奈川が一緒になるのは、山形県民が愛知県と愛媛県がごっちゃになるのと同じっすよ」
変な理屈を持ち出す岸本。実際に、愛知と愛媛の区別がつかない人が山形にいたらしい。岸本は山形大学出身なのだ。
「山形ってどっち?」
山崎が念のために岸本に訊く。
「え~と、北ってどっちでしたっけ?こっちすか?じゃあこっちすね」
力強く北の方角を指差す岸本。近所のスーパーの場所聞いてるんじゃないんだけどなあ・・・。
つづく