もはやすっかり季節外れの話題で恐縮だが、みなさんはご自分の小学校の入学式のことを憶えているだろうか?
「きょうは私から皆さんにプレゼントがあります」
今から31年前。私の小学校の入学式で校長先生はこう新入生の前で切り出した。
「プレゼントは三つの木です。三つの木とは勇気、元気、根気です」
・・・・結局何もくれないんじゃん!非常に落胆したことをきのうのことのように覚えている。
きっと校長先生は知人の結婚式で耳にした「三つの袋を大切にしてほしいと思います」というスピーチにヒントを得て祝辞を考えたのだろうが、それだったら「三つの木を大切にしてほしいと思います」って言えばいいのに「プレゼントします」というアレンジを加えたことで子供たちをいたずらに落胆させる結果を招いたのである。
どうしてこんなことをしてしまったのだろうか?大人の見栄だろうか?しかし、その見栄のために「これだから大人ってやつは信用できねえんだっ!」とその日からグレ始めた児童もいたとかいないとか・・・っていう噂を聞いたり聞かなかったりしたものである。
そんな非常に問題の多いスピーチだったが、小学校の校長先生の話で私が今でも憶えているのはこれ一つだけなのだった。
中学の校長先生の話は何一つ覚えていない。
高校一年の時の校長先生は政経がもともとの担当科目だったために、いつも全校集会でマクロ経済の話を延々として、我々生徒たちをケムに巻いた。ケムに巻いたとしかいいようがない。ちっともわからなかったのだ。校長先生が教えてくれたことといえば、「スピーチは聴衆のレベルに合わせる」ということぐらいだろうか?
一方、私が2年生になったときに赴任してきた校長先生の話はとてもわかりやすかった。中でも体育祭の開会式でのスピーチが忘れられない。
「空を、見上げてごらん」(限りなくやさしいトーンで)
確かに体育祭にふさわしい秋晴れだったが、校長がこう切り出したとたん、グラウンドは爆笑に包まれたれた。片手で自分の鼻をつまみ、もう片方の手を顔の前で左右に振り「くっせ~、くっせ~」と大声で叫ぶ生徒も何人もいた。最近は見かけない動きだが、当時はわざとらしい言動に対してはこのように目の前に本当にクサい物があるかのようなリアクションをとるのが正統とされていたのだった。
とにかくこの校長先生は青春が大好きだったのである。そして、そんな校長の青春好きの巻き添えとなったのが野球部だった。超弱小チームだったのに、翌年の夏の高校野球で、予選の一回戦から校長命令で全校生徒が球場に応援に行くことになったのだ。その話を聞いた当の野球部員たちは「緊張しちゃうから、みんなで来るのはやめて下さい」と校長室に直訴しにいったそうだが、全く相手にされなかったという。
結果は8対0、5回コールド負け。こちらも全く相手にされなかったわけである。緊張しちゃおうがしまいが、歴然とした実力差があった。
ただ、今でもこうして青春の1ページとして私の記憶にも残っているのだから、青春大好きの校長先生の思惑通りということになるのかもしれない。