ほとんど実のない会議もかれこれ3時間を越えた。
もうこれ以上何かが決まることはないだろうが、飲み足りない我々は別の店に入った。今度は小洒落たレストランバーだ。一軒目の居酒屋の料理がまずかったため、まだお腹がすいていた我々はナチョスとペンネ・アラビアータを注文した。
出てきたナチョスに岸本がタバスコを振り掛ける。
「タバスコっていうのはナチョスにかけるか、トマトジュースにちょっと垂らすのが世界標準で、ピザにかけるのは日本人くらいなんだぜ」と私が得意の薀蓄を語っている間中もずっとタバスコを振り続けている。
「そのぐらいにしとけよー」
岸本からタバスコを取り上げてテーブルの上に置いたら、そのタバスコを手にした仁村がまたジャンジャン振り掛ける。仁村は人が何か楽しそうにやっているのを見ると、自分もやって見たくなる性質なのだ。赤ちゃんの心を持つ女なのだ。
ナチョスはすっかり罰ゲーム用の食べ物と化した。みんな大汗をかきながら食べた。
「このペンネ・アラビアータ、滅茶苦茶辛いっす」
続いて出てきたペンネ・アラビアータを食べながら岸本が涙を流していた。
ええーっ!なぜペンネまで?ナチョスのようなことにならないよう「ペンネにタバスコかけるのは禁止」と固く命じておいたはずなのに・・・・。よく見ると岸本の取り皿は真っ赤だった。さっきのナチョスから滴り落ちたタバスコがたっぷり残っていて、そのせいでペンネまで大変なことになってしまったのだった。
「相澤さんも竿買いましょうよー」
タバスコの威力で血行が促進され酔いが回ったのか、岸本がしつこくしつこく私に竿を買うことを薦めてきた。今回のメインテーマはブラックバス釣りである。岸本と山崎は中学生の頃から釣りを嗜んでおり、釣り竿も持っていた。私は釣りに興味もないし、今回もレンタルで済ますつもりだった。
「絶対買えば愛着が湧いてくるんですよ。楽器とかだって、思い切って買うと愛着湧くでしょ?」
「いや、俺昔エレキギター買ったけど、サッサと一年半で売り飛ばしたよ」
「楽器と釣具は違いますよ!」
楽器の話持ち出したのはそっちだろうが!もうわけがわからない。
このメンバーで本当に大丈夫なのだろうか?本当に初日はバーベキューだけなんだろうか?グダグダになってしまわないんだろうか?不安いっぱいで帰路に着いた。
「そういえば富士山って五合目まで車で登れるんじゃなかったっけ?」
ウチに帰ってから急に思い出した私、富士山も含め、あらためて河口湖周辺の観光スポットを調べてみた結果、白糸の滝、富嶽風穴、鳴沢氷穴などという魅惑のスポットも発見し、早速翌日他の3人にメールで報告したところ、山崎から「そーだ、白糸の滝はスゲかった」というメールが、仁村からは「私も穴とか滝とか行ったことあり。確かオススメです」というメールが帰ってきた。
きのう言ってくれよーん。なんで行ったことがあるのにあの会議の席で思い出せないかなー。
仁村のメールは「富士山はやはり登りたくなると思います。そこに山があるから」と続いていた。登山家か!
そして岸本からは「尻が・・・・熱い」という返信があった。昨夜のタバスコのせいらしい。
つづく