S先輩のプロパガンダ力は昔から定評がある。本人があまり人にしゃべりたくないようなことを、頼んでもいないのに面白おかしく加工して宣伝する能力は群を抜いている。私はS先輩のそういう姿を目にするたび、「山ねずみロッキーチャック」というアニメに出てきた「おしゃべりカケスのサミー」というキャラクターを思い出さずにはいられない。今回も「一人でサイパンツアーを申し込んだら、旅行代理店の人に何度も『本当に一人で行くんですか?』と聞き返された」という、実際にはなかったエピソードつきで噂が広められていた。
「サイパンに一人で行くなんて、有り得んすわー」
翌日、後輩たちから同じセリフを何度も言われ、すっかり頭に来た私は携帯電話を取り出した。電話の相手は旅行代理店である。
「すいません。・・・・もう一泊延長して下さい」
とことん一人でサイパンを楽しんでやる。「サイパンに一人は有り得ない」といったヤツらに「相澤という男は不可能を可能にする男だ」ということを思い知らせてやるっ!
「サイパン一人旅」この連載は、「男の一人旅なんて侘しいに決まっている」という偏見に、文字通りたった一人で立ち向かう男の物語である。・・・・・って、プロローグ長っ!
つづく