「ゆうべ合コンの夢見ましたよ」
翌朝、チカ夫さんにそう話し掛けられた。チカ夫さんは東京での合コンには参加しないはずだが、とりあえずいい夢を見たみたいで羨ましい。私が昨夜見た夢ときたら・・・・。
一つ目は受験に失敗。二つ目は失恋。三つ目は会社で口論、四つ目はレストランで喧嘩、五つ目は飼い猫が大暴れ。一晩に5回もうなされて目を覚ましたのだ。現在・過去・公・私、満遍なく四面楚歌のうえに飼い猫にまで手を噛まれたのだ。ベットは寝汗でぐっしょりになり、前の日に体に染み込んだ海水が全部出たのではないかと思わせるほどだった。こんな八方塞がりの夢を見たのはダイビング講習のプレッシャーが原因かもしれない。
前回は楽しかったことしか書かなかったが、実際の講習は楽しいばかりではない。レギュレーターやマスクが外れたり、自分のタンクの空気が無くなったりしたときの対処法をしっかり練習させられる。プールの中ならまだしも、水深8mの海底でマスクやレギュレーターを外すのは結構怖い。周りは全て海でどこにも逃げようが無く、まさに八方塞がりである。そんな状況が夢に反映されたのかもしれぬ。
そんな過酷な講習をこの日の午前中も続け、やっとライセンスを取得できた。これで水深18mまでは自由に潜ることができるのだ。早速午後はオブジャンビーチというスポットで潜ることになり、先輩ダイバーであるリエさんの彼氏も合流した。
しまった!
彼氏が合流する前に、リエさんに連絡先を聞くのを忘れていた。まさか彼氏の前で聞くわけにも行くまい。これで東京での合コンダブルヘッダーはお流れになってしまった。一体何をもたもたしていたのか。チャンスの女神は前髪しかないというのは本当だなとつくづく思った。・・・ちぇっ、変な髪形しやがって!
オブジャンのオブは青い海、ジャンは白い砂だそうである。海の中に潜ってもその名の通り、白い海底と青い海がどこまでも続く。海底に着地してあたりを見渡すとどこか別の惑星の大地に立っているような気がしてくる。深度はおよそ16m。きのうの倍の深さだ。透明度もきのうのラウラウビーチよりさらに高く、もはや水族館の水槽と変わらない。さすが世界でも屈指の透明度を誇るサイパンの海だ。
しかし私はそんな素晴らしい海を楽しみきれなかった。これまでの講習で、潜る前から疲労しきっていたのである。風邪気味だったせいか耳抜きもうまく出来ず、さらに海中で消耗し、しまいには吐き気までしてきて、海から上がった時にはヨロヨロ&ヨボヨボになっていた。
「これがワシか!?・・・・・」
まるで玉手箱を開けてしまった浦島太郎のように、自分でもビックリするほど老け込んでいた。まさに電池切れ。口を開くのも億劫で、車に戻ってからは全く会話に参加せずに助手席で眠り続けた結果、ダイビングショップに到着したときにはこんな言葉で起こされてしまった。
「はい、おとうさん、起きて下さい」
きのうは「えー!ノブさん38歳なんすかー?32、3にしか見えませんよー」と言ってくれたはずなのに・・・。
「明日も朝早いから、きょうはもう早く帰って寝てください」
さらにこう言われてしまい、私も素直に従うほか無く、そのあとに予定されていた飲み会もお流れになってしまったのだった。
つづく