言われた通り早く帰って寝たら一応元気になった。
翌日は楽しみにしていたボートからのダイビングである。
港からほんの数分ボートに揺られてダイビングスポットに到着する。
一本目のダイビングは第二次世界大戦時の日本の大型輸送船が沈んでいる沈船ポイント、2本目はB-29と呼ばれているポイントに潜った。B-29と呼ばれているが、実際に沈んでいるのは帝国海軍の戦闘機である。どちらもかつてサイパンが激戦地だったことを物語るものであるが、今はカラフルで個性的なファッションで着飾った熱帯魚たちが溢れ返っていて、まるで熱帯魚たちの竹下通り、もしくは渋谷センター街である。
目の前をヒラヒラと横切るばかりでなく、時にはにつついてきたりもする。「じゃれてきたりして、本当にカワイイなあ」と思っていたが、後でチカ夫さんに聞いたら、それはじゃれていたのではなく、「入ってくるな!」と攻撃してきていたということらしい。私は手袋やウエットスーツの上からつつかれたので別に痛くは感じなかったが、肌が露出した部分をつつかれると結構痛いそうだ。
ヒラヒラ泳ぐ熱帯魚も美しいが、あまり動かない魚たちも魅力的だった。船壁の隅で幟を沢山立てたようなミノカサゴが仏頂面で佇んでいるのや、飛行機の翼の上にほとんど翼と同化したカレイが張り付いているのを発見して「ウオっ!」とか「ギョっ!」などと実に魚にふさわしい歓声をあげた。ドランクドラゴンの塚地さんを思わせる、ずんぐりむっくりした体型のハゼも何とも言えない愛嬌があって、いくら見ていても飽きない。プーっとしたふくれっつらとしばしにらめっこを続けた。
「あー、楽しかったなあ・・・」
そんな海の中の様子を、夜一人でバーのカウンターに座り、思いのほかアルコール度数の高いオリジナルカクテルを舐めながら反芻していたら、何だかフワフワしてきてとてもいい気分になった。まさに夢見心地である。そして私は気付いてしまった。
「一人も悪くないじゃん」
今回の旅をきっかけに私の結婚はさらに遠のいたかもしれない。
おしまい