お父さんと呼ばないで
子供がいる家庭では、妻は夫のことを「お父さん」と呼ぶ。
日本では普通のことだが、外国の人たちにとってはホワイ ジャパニーズ ピーポー案件の一つらしい。
自分の父親ではない人間を「お父さん」と呼ぶのは、家庭内にとどまらない。
先日街なかでモデルルームの呼び込みをしていた男性に「お父さん、見ていきませんか?」と呼びかけられて、とても腹が立った。
私には子供がいない。
人生で初めて「お父さん」呼ばわりされたのだ。
30歳のころ、迂闊にも写真撮影をしていた高校生の前を横切って「おじさんが写っちゃった」と言われた時の何倍もショックだった。
私のように普段「お父さん」と呼ばれていない人間は、「お父さん」と呼ばれることにものすごく抵抗を感じる。
そのあたりに配慮してか、先日テレビの街頭インタビューでディレクターが年配の男性に「お兄さん」と呼びかけているのを見たが、あれもちょっと違和感があった。
日本語には、名前も知らない初対面の年配男性に呼びかける適当な言葉がないのだ。
その点、中国が羨ましい。
年上の男性に呼びかけるときには「先生」と言うらしい。
「先」に「生」まれた人だから、もともとの言葉の意味通りだ。
それなのに日本では教師や医師など、ごく一部の人に対してしか使えない。
せっかくちょうどいい言葉があったのに、勿体ないことをしたものだ。
そういえば以前、ケバブ店の前を通りかかったときにトルコ人の店員にこう呼びかけられた。
「そこのイケメン!」
悪い気はしなかった。