レッツ・ビギン
「お前も一緒に、11月の揖斐川マラソンに出ないか?」
4月下旬のある日、会社の先輩に勧誘された。この人はすでに5回も揖斐川マラソンに出場している強者だ。
「絶対、感動するって!」
「いやー、絶対無理ですね、やめときます。長距離は高校時代に校内マラソンで10キロ走ったのが最後ですもん。それに揖斐川でしょ?確かあのコース、高低差が200mもあるんですよねー。僕、心臓があまり丈夫じゃないんです。絶対完走できませんから・・・・」
「完走できなきゃ意味ないのか?」
「え?」
「大事なのはスタートラインに立つことじゃないのか?」
簡単に説得された。「大事なのはスタートラインに立つことじゃないのか」って言われたら「そうです」としか言いようがない。まさにワンフレーズポリティックス。「改革にYESかNOか」って突きつける小泉首相のやり方だ。
「じゃあ、早速ランニングシューズを買いにいこう」
さっさとシューズも買わせて、その気にさせてしまおうという先輩の策略も見え隠れしたが、あくる日待ち合わせ場所に行ってみると、他にも3人の若手社員がいた。先輩のワンフレーズポリティックスに乗せられたのは私だけではなかったのだ。
「よし、じゃあ今まさにスタートラインに立ったというイメージで記念写真を撮ろう」
先輩がデジカメを構えると4人のうち2人がクラウチング・スタートの構えを取ろうとした。マラソンのスタートにクラウチングはないよなー。大丈夫なのかしらん?この人たち・・・・・。