冥土の居酒屋 その2
「『お帰りなさい』って言われたら何て答えればいいの?」
「そりゃ『ただいま』でしょう」
なんて言っておきながら、いざ店に入り実際にメイドさんに「おかえりなさい、ご主人様!」と言われると何も言葉が出なかった。
やはり見ず知らずの他人に「ただいま」とは言いにくいものである。
メイドという洋風な存在がウリの店なのに、客席はお座敷だった。
全員席につくとメイドさんが「幹事のご主人様はどちらですか?」と問いかけてきた。
「幹事のご主人様」という斬新な表現にメンバーはどよめいたが、メイドさんは全く動じずメニューの説明を始めた。
「お料理代プラス1500円で飲み放題コースをお付けすることが出来ますが、1500円のコースですとビールは瓶ビール、焼酎も韓国焼酎、あと酎ハイは3種類だけとなっております。さらに300円プラスしますと、カクテルなどが増えますが、もし生ビールが飲みたいということであれば、さらにもう300円プラスして頂かないと・・・・・」
小刻みな金勘定にご主人様気分は早々に吹っ飛ぶ。
600円が惜しい我々は1500円で瓶ビールで我慢することにした。
メイド居酒屋だからといって、メイドさんがビールを注いでくれたりするわけではない。
料理も大皿で運ばれてきて、自分たちで取り分けなくてはいけない。
「ソースは?」などと訊くと「そちらの棚から取って下さい」と言われてしまう始末。
どうしてもメイドさんにサーブしてほしかったら「メイドが巻き巻きする北京ダック 2500円」「メイドが取り分けるフカヒレ 3500円」などそれなりのメニューを頼まなければいけない。
そんなもの600円をケチる我々が頼むわけがない。
もっとリーズナブルなものを探す。
メニュー表に載っている料理のうち、ハートマークがついているものはメイドさんが何らかのサービスをしてくれることになっていた。
一番安いのが「萌え萌えタマゴ 280円」だった。
つづく