テレビ愛知

≪ 2005年08月 | メイン | 2005年11月 ≫

2005年09月 バックナンバー


2005年09月09日

知床・釧路でルールルル その1

アナウンス部では月の終わりに次の月のシフト表が出ることになっている。9月のシフト表を貰って驚いた。3日から6日まで4連休になっているではないか!8月、夏休みも取らずに走りつづけた私にやっとバンバンバカンスだ。でも急に4連休と言われても、太陽と打ち合わせしてるヒマもない。「夏休み知床行ってきたんだけど、本当によかったよ」という知人の意見をそのまま鵜呑みにすることにして、女満別空港へ飛んだ。

女満別空港からさらにバスで2時間、知床のすぐ手前にあるウトロ温泉街のホテルに到着するともう夕方であった。ここまででもう「一日仕事」であるが、夕食を食べて再びバスに乗る。知床国立公園をめぐり、夜の野生動物に出会う「知床 夜の大自然号」だ。

つづく

2005年09月12日

知床・釧路でルールルル その2

「野生動物の目はライトに反射して光りますから、注意して外を見ていて下さい」

ガイドさんに言われて、バスの窓から暗闇にじっと目を凝らす。エゾシカ、キタキツネ、ヒグマがいつ出てくるかわからないというドキドキ&ワクワク感。とくにキタキツネへの期待は大きい。いつ現れてもいいように「ル」の口で待機だ。

まず最初に姿を見せたのは、りっぱな角を生やしたエゾシカだった。デカイ。

「エゾシカの平均体重は120kgですが、これはもっとありますねー。少なく見積もっても121kgはありますねー」

ガイドさんはこういうベタな肩すかしを得意としていた。

「きょうは曇り空で残念でしたねー。晴れていれば満天の星空を鑑賞して頂けたんですけどねー。待ってれば晴れると思うんですけどねー・・・・3日ぐらい」

星空のために3日は待てないが、キタキツネのためなら待ってもいい。ひたすら暗闇にその姿を捜す。みんなそんな感じで車内はシーンと静まり返っている。

「前方見て下さい。いましたねー、キタキツネです」

いたっ!小さい。猫ぐらいの大きさの子狐が道路の真ん中をちょこまかと走っていた。バスの存在を気にもとめていないようだ。逃げもしないが、かといって寄ってくるわけでもない。

「ここの動物たちはこの時間帯にやってくる車はエサもくれないし、かといって乱暴もしないってことがわかってるんです」

いたってマイペースな子狐とは対照的に、車内の人間たちはシャッターチャンスを逃すまいと大わらわだった。野生動物はわりと光に対しては鈍感で、フラッシュをたいたりしても逃げ出したりしない。そのかわり音に対しては敏感で声を出すのは控えてくださいと言われていた。残念ながら「ルールルル」とも言っちゃいけなかったのだ。

それでも車内の女性客たちは「カワイイっ!」を連発していた。ガイドさんからは「野生動物が見つかるまではおしゃべりしていてかまいませんが、野生動物の姿が見えたら静かにして下さい」と言われていたのに、まるで逆になっていた。まあ、仕方ないだろう。36歳、男の一人旅の私でさえ油断すると「カワイイ」っ!と声を出してしまいそうになるほど、子狐は可憐だったのだ。

さて、残るはクマだ。

知床・釧路でルールルル その3

橋の上でバスを止めて、ガイドさんが川の周辺を念入りにライトで照らす。そろそろサケの遡上が始まっており、それを狙うクマが来ているかもしれないのだ。

「みなさん、クマというとまず川でサケを獲って食べているイメージを思い浮かべるんじゃないかと思いますが、実際にクマの食事に占めるサケの割合ってどのぐらいだと思いますか?」

ガイドさんからの問いかけに車内から「20%!」とか「30%!」という声があがる。

「実際は0,4%に過ぎないんです。じゃあクマが何をたべているのかといいますと、94%は植物なんです。残りの6%が動物性タンパク質ですが、それもほとんどは蜂などの虫なんです。でも、テレビではクマがサケを獲って食べる映像ばかり目にしますよね。それはなぜかというと、カメラマンの都合なんです。クマが森の中で木の実を食べる様子は、まず撮影できませんが、サケを食べているところは、サケが遡上するシーズンに河口で車を停めて1週間も待っていれば絶対撮れますからね。その映像を私たちは繰り返しテレビで見せられて、クマはサケばかり食べていると信じ込まされているんです」

テレビの怖さはテレビ局から離れたところで気づかされるものである。

つづく

知床・釧路でルールルル その4

次の日も朝からバスツアーに参加した。日中のバスツアーは、バスツアーといっても知床国立公園まで運んでもらうだけで、あとはほとんどウォーキングである。

バスを降りると、まず最初にガイドさんから公園内を歩くにあたっての注意事項をきく。「もしクマに遭遇したらどうするか」である。昨夜のバスツアーでは、結局クマを見られなかったので、むしろのぞむところではあるが、命までとられてはかなわない。真剣に耳を傾ける。

「クマに会ったら死んだフリ、とよく言われますが、これは危険です。クマは人間の人差し指くらいの大きさの、鋭い爪を持っています。人間が横たわっていたりしたら、その爪で『これ何だろう?』とひっくり返したりするかもしれません。それだけで大ケガをしてしまいます」

恐ろしい。ではどうすればいいのか?

「決して目をそらさずに、ゆっくりと後ずさりしてください。自分だけ助かろうと思って背中を向けて走り出したりしたら、まず最初に襲われますよ」

クマさんに出会っても、スタコラサッサッサノサーは命取りなんである。

つづく

2005年09月13日

知床・釧路でルールルル その5

木道の上をズンズン歩いていくとエゾシカがいた。夜のツアーの時と違って、夏毛の模様がくっきりと見える。白い斑点がいっぱいついた、バンビのような模様、いわゆる鹿の子模様だ。でも、何でこんな模様がついているんだろう?トドマツの林の中でガイドさんが教えてくれた。

「みなさんのシャツを見てください。木々の葉っぱの間から差し込んでくる日の光が当たっているところが、白い斑点のようになってますよね。鹿の夏毛はこの模様です。保護色になっているんです」

トドマツの中にはキズがついたものがある。

「これはシカが角を磨いたあとです。角をするどく研いで、なおかつ松脂のワックスでピカピカと光らせることが出来るんです」

松の幹の肌にはプクプクしたところがあり、そこを押すと松脂が出てくる。松脂は森林浴の香りがする。フィトンチッドの香りだ。人間にとってはとてもさわやかな香りだが、他の植物にとっては恐ろしいものだそうな。

「フィトンチッドは『植物を殺す』という意味の言葉です。フィトンチッドを出すことによって、ここにトドマツ以外の木々が生えないようにしてるんです」

木についたキズからこれだけ話が膨らむのだ。自然は楽しい。

ヤマナシの木には幾筋も深々としたキズがつけられていて、かなり高いところまで続いていた。クマが実を取って食べようと登ったあとだという。

「クマは滅多に遭遇することがないので『本当にいるの?』と聞いてくるお客さんもいらっしゃいますが、これがクマがここにいるという証拠です」

クマは見たいけれど、あの深々としたキズを見たら、やはり恐ろしい。ガイドさんも遭遇したことはあるけれど、動転してカメラのシャッターを押すどころではなかったそうである。

つづく

知床・釧路でルールルル その6

「9月になると風が変わるんさー、晴れてても波が立つんです」

バスツアーは午前中で終わり、午後からはウトロ港から出る遊覧船で海から知床半島の断崖絶壁を見てみようと思っていたが、この日は一日中欠航であった。

とりあえずバスのターミナルに行ってみたが、駅に向かうバスが出るまでにはまだ時間がかなりあった。バスターミナルの脇にペレケ川という川が流れており、川沿いに遊歩道があるようなので、ちょっと歩いてみることにした。

「んっ?」何気なく目をやると川が変だった。何やらウジャウジャと動いている。カラフトマスの遡上が始まっていたのだ。

小さな川は人工的に何段も階段状になっているところがあり、一番大きな段差は1m以上あった。その手前のところは段差を登りきれないマスたちであふれかえっていた。懸命に何度も段差に挑むマスたち。感動的な光景である。「力の限り生きてやれ!」頭の中で松山千春さんの「大空と大地の中で」のそのフレーズだけが繰り返し流れた。こういうものを目にするとやはり懸命に生きることの美しさに気づかされる。その一方で、「これぐらい頑張った者だけに子孫を残す資格が与えられるのか・・・・俺、結婚できるのかなあ?」という不安がよぎったりもする。

私の隣では、りっぱなカメラを持ったおじいさんが、マスが段差を登りきる瞬間を写真に収めようと悪戦苦闘していた。マスが段差をクリアする確立は5分の1ぐらい、しかもトライするタイミングがわからないのだから、なかなか難しい撮影である。

私もデジカメを構えた。このマス行きそうだ!すかさずシャッターを押す。バタバタバタバタ(マスが激しく水をかく音)やったー、登りきったー!カシャッ・・・・・・・遅っ!どれだけシャッター押してからカシャッていうまで時間がかかるんだデジカメは!

このデジカメでは無理だな・・・・。よし、行くとするか。カラフトマスとは対照的なあきらめのよさを発揮して、川を後にするのであった。

つづく

知床・釧路でルールルル その7

知床から釧路への移動に半日かかり、ホテルの部屋に入った時にはもう夜になっていた。テレビをつけて驚いた。台風14号が九州に接近していた。えーっ!もう少し西の方に行くんじゃなかったの?しかもこの台風は強風域が広いのが特徴で、雨、風ともに広い範囲に影響が出る恐れがあるという。名古屋に帰るのはあさっての予定だったが、一日早めた方がいいのではなかろうか?夜の釧路の街に繰り出すこともなく、ウジウジと悩む。結論を出したのは翌朝。午前中だけバスツアーに参加して、午後の便で名古屋に帰ることにした。

釧路湿原には展望台が何ヵ所もある。そのうち3ヵ所をめぐるツアーだった。見渡す限りの地平線とダイナミックに蛇行する川。確かになかなかお目にかかれるものではないが、そればっかりでもねー。昨夜ウジウジ悩んでよく寝ていなかったため、バスの中では寝てばかりいた。せっかく今回参加したバスツアーの中では唯一の女性バスガイド、しかも結構かわいかったにもかかわらず。「雨がポツラポツラ降ってきましたねー」なんて言うのを「へえー、ポツラポツラって言うんだー」とウツラウツラしながら聞いていた。

唯一、私の心を激しく揺さぶったのはアイヌの人々に伝わるシマリスの話だった。

「シマリスの背中には5本、シマが入っていますけど、これはクマの爪の跡だそうです。クマとシマリスは大の仲良しで、クマが『カワイイカワイイ』とシマリスの背中を撫でた時に爪の跡がついちゃったそうです。カワイイお話ですよね

女の子の「カワイイ」の守備範囲の広さには驚かされる。まさに神出鬼没だ。どこに出てくるかわからない。この話のどこがカワイイというのだろうか。私の脳裏にきのう目撃したクマの爪の跡が浮かんだ。シマリスは死ぬほど痛かったに違いない。それでも権力者のクマには文句も言えないのだ。

「あれ?血出てるねー。痛かった?」

「いや、全然痛くないっス」と言いながら脂汗をタラタラ流すシマリス。巣に帰るとドサッと倒れ込むのだ。驚いて駆け寄った妻リスは、夫の背中の傷を見て誰の仕業か一瞬にして悟る。

「あなたぁー、後生ですからクマさんなんかとつき合うのはもうやめて下さいっ!(泣)」

「バ、バッキャロー!俺たちみてえに弱いもんが、キタキツネやワシどもから身を守るにはクマさんにすがるしかねえだろうがー」

そんな夢をみていたら、バスは釧路空港についた。

中部国際空港に降り立つと、雨は降っておらず、とくに風もなかった。「一日早める必要なかったのかなあ」またウジウジ悩む小さな男。北の大地の大きさに触れても変わることはなかったのだった。

おしまい

アナウンサーの動画を見る!

プロフィール

【最近面白かった漫画】
「三月のライオン」
「とめはねっ!」
「宇宙兄弟」
「モテキ」
「へうげもの」
「もやしもん」
「こさめちゃん」
「犬のジュース屋さん Z」

【好きな言葉】
「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない」(寺山修二)
「しゃかりきコロンブス」(光ゲンジ)

【担当番組】
ニュースデータで解析!サンデージャーナル、特番など

バックナンバー



RSS:このブログのフィードを取得
もっともっとバックナンバー
テレビ愛知HPトップへ!
Copyright©Aichi Television Broadcasting Co.,LTD. All rights reserved.
注意事項:このWEBサイトに掲載されている文章・写真等の著作権はテレビ愛知およびその他の権利者に帰属しています。
無断での転載・再配布などはご遠慮ください。