グアムで結婚式 その1
飲み仲間の一人である広報部・加藤マリ、通称カトマリがグアムで結婚式を挙げるというので、グアムに行くことになった。
早速会社の人に自慢する。
「俺、グアム行くんすよ。カトマリの結婚式で」
「へえ、いつから?」
「15の夜」
「15の夜て!尾崎気取り?盗んだバイクで走り出すの?行く先もわからぬまま?」
「行く先はグアムって言ってるじゃないですか!当然バイクじゃなくて飛行機だし。15日の夜の便ってことです。カトマリの結婚式は17日なんで、新郎新婦より早い現地入りになっちゃいますね」
「何なの、そのやる気は?」
「ついでにダイビングもしてこようと思って。今回は水中カメラマンもやってるTさんが一緒なんで心強いっすよ」
「で、結婚式はどんなとこでやるの?」
「さあ?どんなとこでしょうね。何かどっかのホテルらしいです。場所も時間もうろ覚えで・・・・」
「結婚式のほうがダイビングのついでみたいなことになっちゃってるじゃん!」
「まあ、今回はTさんが一緒なんで、そのへんのこと全て頼りきっちゃってるんです。Tさんと一緒でホント、いいことづくめですわ」
「・・・・果たして本当にそうでしょうか?」
「えっ!何?急に探偵さんみたいな口調になって!何かあるんですか?」
「Tさん、鼾が・・・・・・。覚悟しとけ」
「マジっすか!」
「耳栓は絶対必要」と言われたのに、当日まで買うのを忘れていた。
空港で買うつもりでいたら、その前にTさんと会ってしまった。
Tさんとは何回か仕事で一緒になったことがあるだけで、今まで一緒に遊びに行ったりしたことはない。
その程度の間柄なのでいきなり「耳栓を買いに行ってきます」と言ったら角が立つと思われ、Tさんが水中撮影用のビデオカメラの検査で足止めを喰らっているのを見計らってダッシュで買いに行くことにした。
やはり予め買っておくべきだった。
空港の売店に置いてある耳栓は気圧の変化で耳が痛くなるのを防ぐ機能がメインで遮音性はあまり高くないようであり、しかも850円もしたのである。
しかし、迷っている時間はなかった。
パッと手にしてレジへ走った。
店を出ると既にTさんは荷物検査から開放されており、私の行方を捜していたようだった。
「どこ行ってた?」
「いや、ちょっと、・・・・ガムを買いに」
旅の始まりからウソをついてしまった。
もっと胸襟を開いたおつきあいをしていこうと思っていたのに・・・。
その後、空港のロビーでTさんにコーヒーをおごって貰った。
500円だった。
850円-500円で350円か・・・・などと頭の中で計算してしまう。
でもこういう損得勘定をしていたら、私はTさんに対して巨額の負債を抱えていたことになるだろう。
Tさんはこのあともいつのまにか私の分までビールを買っておいてくれたり、2人でダイビングに行ったときもいろいろケアしてくれたり、本当に一方的にお世話になってしまった。
それに、そもそも今回の旅の手配からダイビングの予約まで全てTさんがやってくれたのだった。
だから鼾ぐらいの欠点には目をつぶろうと思った。
でも目をつぶってもなかなか眠れない夜もあった。
なぜなら私が空港で慌てて買った耳栓のパッケージにはよく見ると「小児用」と書かれていたから・・・・・。
エアコンの送風音すらカットできませんでした。