テレビ愛知

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2007年01月11日

金沢 絆見つけ旅 その1

「うわー、キレイな10時10分だー」

車内が笑い声で溢れた。私のハンドルの持ち方があまりに基本に忠実だというのである。その他にも「シートが前すぎ」とか「姿勢がよすぎ」などとも言われて笑われた。なぜ笑うか!みんなだって「シートはブレーキペダルをしっかり踏めるように前目に、背もたれは立ち気味にして尻と背中をぴったりとくっつけて座るように」と教わったはずだろう?それにこれぐらい基本に忠実に、しっかり緊張感を持って運転しないと、キミらだって不安じゃないのか?キ  ミらの命を預かってるのは俺なんだからな・・・・。

「日本海へ相澤さんの運転する車で海の幸を食べに行こう!」

Sp1010149 そんな話が10日ほど前の会社の忘年会の席で出た。もう午前2時を回っていたと思う。そんな酒の席での約束などたいてい実現しないものだが、実現してしまった。命知らずたちめ!俺は3ヶ月前に免許を取ったばかりで、まだ10数回しかハンドルを握ったことがないんだぞ!1500cc以下の車しか運転したことない人間に、いきなり8人乗りミニバンの運転を任すなんて!

Sp1010150 「ウワーッ!」

笑い声が悲鳴に変わった。黄信号でブレーキが遅れたのだ。8人も乗ってるとブレーキの利きが悪い。早め早めのブレーキを心掛けなくては。そう肝に銘じる。・・・・それなのに、その2分後にまた同じことを繰り返した。

目的地は金沢だ。名古屋ICから高速に乗る。入り口で通行券の発券機にうまく近づけず、必死に手を伸ばす。「んぐ~」ともがく姿をたっぷり30秒ほどこんな大人数にさらしてしまった。

出発して15分の間に次々に運転技術の拙さを見せつけられて、車内には「これは手助けをしなくては本当にキケンな目にあいそうだぞ」という空気が流れ始めた。

「今だ!」

高速道路の合流の時にはみんながタイミングを指示してくれる。いい声が出ていた。大変な盛り上がり(?)である。

盛り上がりすぎて、迂闊に独り言も言えなかった。私が「おお!いい眺めだ」とか「ああーっ!この曲知ってる」などと口にすると、そのセリフの頭の部分の「おお!」とか「あーっ!」という部分だけに敏感に反応して「何!トラブル?」「どうした!」「うわー」「ぎゃー」という声が次々にあがり、「いい眺めだ」とか「この曲知ってる」というコメントはすっかり掻き消されてしまい、車内は恐慌状態に陥るのだった。

逆にジャンクションのぐるぐるループではみんなシーンと静まりかえっていた。

「えっ?何でみんな息止めてんの?」

思わず聞いてしまった。みんなカーブの遠心力で外側になぎ倒されるのを警戒していたのだった。・・・・あるいは警戒ではなく、期待だったのかもしれない。一斉に「うわー」とか言いながらなぎ倒されたら盛り上がったかも。みんなそのタイミングを今か今かと待っていたのになかなか来なくて、あの息を止めたような状態になったのかもしれない。

しばらく走っていたら、変なところに力が入っていたせいか右の肋骨周辺がとても痛くなった。生まれて初めて感じる痛みだった。しかし、その緊張も徐々にほぐれ、調子に乗って追い越しに挑戦することにした。

「よしっ!」

そう言いながら、右ウインカーを出して車線変更しようとした瞬間に右脇を車がすり抜けていった。運転席の窓と後部座席の窓の間の壁の影に隠れて見えなかったのだった。危ないところだった。

「・・・・今の『よしっ!』は何だったんですか?」

助手席の大久保が再三聞いてくる。小声で言ったのにしっかり聞こえていたようだ。チッ!「よしっ!」とか言わなきゃよかった。「いや何でもない」とか「ちょっと自分に気合を入れただけだ」とウソをついた。

その後は慎重に確認した上で追い越し車線に入ったが、右側ばかりチラチラ見ているうちに、ハンドルを握っていた両手が首の向きと逆の方にねじれたらしく、いつのまにか車がかなり左に寄ってしまい、またまた車内から「うわああ」という声があがったりした。

ハンドルを握って1時間半、賤ヶ岳サービスエリアで車を止めた。駐車場に入ってすぐ、停めやすそうなスペースがあったので駐車したところ「えー、こんなとこで止めちゃうんですかー。もう少し売店に近い場所で止めないんですかー」という声が一斉にあがったが、もう停めちゃったんだから仕方がない。

車を降りてからも大久保から「あの『よしっ!』が怖かった」と言われ、他のみなさんからも「そろそろ疲れたんじゃないですか」と暗に交代を迫られたので、大久保に運転を代わってもらうことにした。

再び車に乗り込み、大久保が車を走らせ始めると20mも進まないうちに歓声があがった。

「すごーい!車って、運転する人でこんなに変わるんだ」

「安定感が全然違う!」

「何かシャキシャキしてるー」

何だよ、シャキシャキって・・・・。

つづく

2007年01月12日

金沢 絆見つけ旅 その2

金沢には4時過ぎに到着した。今回の旅の目的はおいしい海の幸だったが、夕食までまだ時間があったので、少しは観光もしておくかと兼六園に入った。私にとってはかれこれ4回目の兼六園ということになる。

Sp1010153 「見所はどこですか?」

入るなりメンバーたちは、せかすようにそんな問いかけを繰り返す。つの優れた点をね備えているという兼六園は、どこから見てもパーフェクトな庭園とされている。門を入った時点から目に映る全ての風情を味わうべきもののはずなのに、パーッと派手でわかりやすいポイントにしか興味がないのだった。まあ、閉園時間が迫っていたというのもあったけれど。

冬の兼六園といえば『雪吊り』されている松が有名だ。幹の近くに支柱が立てられ、その先端から各枝に放射状に縄が張られている。雪の重みで枝が折れないために施される北陸の冬の風物詩だが、それを見た編成部・山川(♀)から驚くべき質問が出た。

「電飾は?」

雪吊りを雪ツリーと勘違いしているのかしらん?

つづく

2007年01月15日

金沢 絆見つけ旅 その3

♪のどが黒Sp1010158いよのどぐろちゃん のどぐろ大好きのどぐろちゃん

のどぐろちゃんの歌を口ずさみながら料理居酒屋に向かう。のどぐろとは日本海の赤い宝石とも言われる高級白身魚。今回のツアーの一番の目的はこののどぐろの塩焼きを食すことだった。

やわらかジューシーな肉質。一口ごとに広がる旨み。いやはや、さすがのうまさだった。

続いて日本海の海の幸の舟盛り。刺身は見るからに新鮮で、つやつやキラキラと輝いており、編成部・仁村(♀)が思わず「日本海の宝船や!」と彦摩呂さんばりに絶叫したほどだった。

3時間に渡ってうまいものをたらふく食い、次の店に移動する。全国の味噌をアテに焼酎を飲むというバーだ。8人でテーブルを囲む。さてどうやって盛り上がろうか?テレビ愛知企画で各種イベントに携わっている山崎さん(♂)から、「山手線ゲームをしよう」という提案があった。といっても普通の山手線ゲームではない。モノマネつきである。例えば「田中邦衛さんで、国の名前!」というお題が出たら、田中邦衛さんのモノマネをしながら国の名前を言っていくのである。

ひどい。みんなあまりにも似ていない。ただでさえ似ていないのに、「インド」とか「アゼルバイジャン共和国」とか、田中邦衛さんがあまり口にしないようなことを言うからますます似ないのだ。そこで、お題をいかにもそのタレントさんが言いそうな言葉にすることにした。例えば「中尾彬さんでダメ出し」というお題が出たら「違うんだよ」「能書きはいいんだよ」などと言っていくのである。

しかし、これがまたひどかった。というか発見だった。男たちはそれなりに中尾さんっぽいバリトンボイスが出せるけれども、あのような低い声が出せない女性たちに中尾彬さんのモノマネをさせると、ただいたずらに唇をとんがらせてうねうねと喋るだけで、結局のところ田中邦衛さんのモノマネと全く同じになるのだ。あまりのひどさに笑ってしまったが、笑っちゃった人の負けというルールがいつのまにか追加されており、私がお題を考えることになった。

「郷ひろみさんのモノマネで、最後にパンのつく言葉」

どうだろう?このお題は。郷ひろみさんのモノマネといえば「ジャパ~ン!」というフレーズだ。このフレーズと同じトーンで「シャンパ~ン!」とか「ジャムパ~ン!」とか叫べば、モノマネ下手なみなさんでもそこそこそれっぽい感じになるだろうという狙いである。

「アヤパ~ン!」

何で一人目からそんな答えが出ちゃうかな!あまりに意表をつかれ、噴き出してしまった。また私の負けである。

「薬師丸ひろ子さんで最後にカンがつく言葉」

同じパターンで出題してみた。映画「セーラー服と機関銃」のクライマックスシーン、機関銃をぶっぱなしたあとの名セリフ「カイ・・・カン」を意識したものである。今度は「カニ缶」とか「空き缶」とか、ある程度予想通りの答えが続いたが、それも5人目までだった。6人目の答えは・・・・。

「コ・・・カン」

なぜそんな言葉を選択するのか?薬師丸ひろ子さんが機関銃をぶっぱなしたあとにそんなセリフを言っているところを想像するとめちゃくちゃおかしい。また私の負けである。

つづく

2007年01月16日

金沢 絆見つけ旅 その4

つづいてみんなで一つの“おはなし”を作るという遊びをした。

「それは2006年のクリスマス・イブだった。大久保のパソコンに一通のメールが届いた」

最初の人がそこまで語る。そこから一人づつ交代で話の続きを考えていき、大久保が幸せになるシンデレラストーリーを完成させるのだ。プレイベートではなかなか素敵な出会いに恵まれない大久保に、せめておはなしの中だけでも夢を見させてあげようという特別企画である。ちなみに大久保のリクエストは「佐藤浩市さんの男性との運命的な出会い」であった。

さて、おはなしの方は「メールの送り主は誰だかわからないが、待ち合わせ場所だけは指定されており、大久保がそこへ向かう」という形で展開されていった。そして、大久保がその場所に辿り着くと小学校時代の同級生がユリの花束を抱えて待っていたのだった。

なぜ冬なのにユリなのか?それはこの時の語り手があまり花の名前を知らなかったからに違いないが、ユリが登場してしまった以上、次の語り手はユリについて語らなくてはいけなくなる。

「僕はユリの花が好きなんだ」

同級生のこんなセリフで回想シーンが始まり、話は小学校時代に遡る。大久保は夏休みの宿題でアサガオを育てなければいけないのにユリを植えてしまったという話になっていた。どうやったらアサガオとユリを間違えるのだろう?ユリって球根じゃん!

そして同級生は大久保のユリの植木鉢から名札を抜き取ったと告白、小学生の頃から大久保に思いを寄せていたと告げるのだった。・・・・ま、これで何とかユリの花束が登場した必然性が出てきた。前の人が思いつきでユリの花束などと口にしたために、次の人はこんなに苦労するはめになった。ところが、さらに次の語り手にバトンタッチされたところでその苦労は無になった。

「そこにSさんが現れた」

なぜかSさんが出てきたのだ。Sさんとは、今回のメンバー全員が知っているテレビ愛知の先輩社員である。

「Sさんは前髪を切りすぎていた」

それ言いたいだけじゃん!それだけのためにせっかく盛り上がりかけた同級生との恋は隅に追いやられた。

そして次の語り手・仁村の番になると、驚くべきことにSさんが増殖し始めた。隣にいたはずのSさんが振り向くと後ろにいたりするのだ。

「それじゃSさん2人になっちゃってるよ!ちゃんと考えてからしゃべれ!」

仁村の次の語り手は私であり、あんまり変な話になるとその尻拭いが大変なのできつく注意する。しかし効果はなかった。かなり酔いが回っていたのか、もはや仁村は自分が何を口にしたのか忘れてしまうようだった。しばらくすると「車が止まり、中からSさんが現れた」とまたSさんを登場させた。

3人目!Sさん3人目!」

本気で仁村を怒鳴りつける私だったが、結局「3人のSさん」を処理するというバカバカしい役目を与えられてしまった。

「全部夢だった」

3人を消し去るにはこれしかなかった。

「目が醒めると、クリスマス・イブの朝だった」

振り出しに戻してしまった。ここまでみんなで積み上げてきたストーリーはすべて水泡に帰したのである。

そのあと再び大久保のもとにメールが届き、今度のメールはパーティーの招待状だったという話になったのだが、道すがら謎の物体を拾ったり、Sさんに出会ったりしてちっともパーティー会場に到着しない。業を煮やした大久保本人が自分の番が回ってきたところで「突如、上空にヘリコプターが現れ、そこからするすると縄梯子が下りてきて、佐藤浩市の男が大久保をさらっていった」と強引に終わらせたのだった。1時間も費やしてこんな終わり方である。

主役交代。今度は私・相澤が幸せになるストーリーをみんなで考えることになった。プライベートでいいことがないのは大久保同様だが、せっぱつまり具合は私の方が上である。それでも夢見ることを忘れない私はかねてから「こんな出会い方してみたい」という理想のパターンを頭の中で描いていたので、自ら最初の語り手に立候補した。舞台は本屋さんだ。

「探していた本を見つけて手を伸ばした瞬間、同時に同じ本に手を伸ばしていた女性と手がぶつかった。『ご、ごめんなさい。もしかしてあなたもこの本を・・・・』」

「うわ、出た!」「すげえありがちー」とみんなに言われたが、このドラマチックな出会いからどんな素敵なラブストーリーが展開するんだろう?期待と興奮で胸を膨らませて、次の語り手にバトンタッチした。

「相澤は本屋にくるといつもトイレに行きたくなるのだった・・・・」

だからそういうのいらないんだって・・・・。

つづく

2007年01月17日

金沢 絆見つけ旅 その5

今回のメンバーは20代は一人だけで、あとの7人はみな30代である。夜がふけてくると何となく顔に疲れや年齢が感じられるような気がしないでもなくはない。そんなことをみんなうっすらと感じ取ったのか、加齢臭の話題になった。

岸本が「加齢臭は耳の後ろのあたりから臭ってくるんですよ」などというので、みなお互いにチェックし始めた。すっごい仲良しぶり。すると約一名、耳の後ろからかなりはっきりと加齢臭を発している者がいることが判明した。しかも気の毒なことに女性である。みんなその女性の耳の後ろのニオイを嗅いでは「おっさんだっ、おっさんがいる!」と大騒ぎし始めた。

その女性が「よくぞ見破ったな明智君!」などといいながら合成樹脂のマスクを外すとおっさんだった、なんてことがあったとしても「ああ、まあじゃあしょうがないか・・・」と納得してしまうほどのカグワシイ香りだったというが、私にはそんなニオイを嗅ぐ勇気がなくて、確かめることができなかった。

もしかして自分も臭うのかしらん?と怖くなり、他の人に思い切ってチェックしてもらったが、「相澤さんはいつもの相澤さんって感じのニオイしかしません」と言われた。そう言われると「相澤さんって感じのニオイ」がどんなニオイなのかが気になったが、これまた勇気がなくて聞けなかった。小刻みに臆病な私だ。

午前1時にその店を出て、カラオケボックスへ向かう。結局、名古屋でも金沢でもすることは同じだ。

カラオケボックスに入ったが、私は一曲も歌わなかった。喉の奥がヒリヒリしていたのだ。さっき大声で「3人目!」と仁村を怒鳴りつけてしまったせいだった。あんなことぐらいでそこまで本気で怒鳴るなんてアホである。それに急に疲れが出てきていて、とても歌など歌う気になれないというのもあった。こんなことは今までなかったことである。昼間の運転のせいだ。みんなを乗せて運転するプレッシャー。ずっと何かに追い詰められているような心境だった。そんな気持ちを引きずっていたのだろう、その晩潜水艦に乗って出撃する夢を見た。

翌朝、10時にロビーに集合した。昨夜おっさん呼ばわりされた女性の耳の後ろがカサカサになっていた。風呂でものすごく念入りに耳の後ろを洗ってきたらしい。

つづく

2007年01月18日

金沢 絆見つけ旅 その6

金沢市民の台所といわれる近江町市場にある定食屋で遅めの朝食をおいしく頂いたあと、港へ蟹を買いに行く。名古屋に帰ってから蟹鍋をするための蟹だ。近江町市場にも蟹は並んでいたが、港の魚市場の方が新鮮なものが手に入るのではないかということだった。S200701071235000

頭に魚を貫通させたような特殊な帽子をかぶった“サカナくんの兄”を自称するおじさんの店で1500円の蟹を2杯買い、とっとと帰路につく。日本海の上空には爆弾低気圧がやってきていた。まだみぞれ交じりの小雨が降ったりやんだりという天気だったが、雪になったら厄介だ。

「運転中すいませんが、ちょっとお知らせしておいた方がいいかなと思うので・・・」

北陸道を走り始めてまもなく、2列目に座っていた山川が運転席の大久保によびかけた。

「おなかが痛くなった人がいます。・・・・あの、別にスピード上げてくださいとかそういう意味でなく、情報としてお伝えしておきます」

「あくまで安全運転で」という気持ちから、変に遠慮した言い回しになっていておかしかったが、事態は切迫していた。助手席から振り返ると、3列目シートに座っていた岸本が前の席の背に突っ伏している。昨晩の暴飲暴食にやられてしまったらしい。しかし、こういう時に限って次のパーキングエリアが遠い。岸本の左右に座っていた女性たちが岸本に声をかける。

「少しぐらいなら漏らしてもいいから」

母性っていうの?女性たちは本当に優しいなーと感心した。でも、たとえ少しぐらいでも漏らせるわけがない。岸本の額に脂汗が浮かぶ。本当に辛そうだ。山川がみんなに呼びかける。

「お腹が痛かった時どうやって耐えたか、体験談を募集します」

うーん、どうやって耐えたっけ?喉元過ぎれば熱さ忘れるってなもんで、お腹が痛かった時どうしたかなんて憶えていない。結局呼びかけた山川本人が自分の考えを述べる。

「お腹に優しく語りかける」

胎教か!何かりっぱなが生まれそうだ。

「大丈夫だよって腸に語りかけたら、腸が安心するんじゃないかな」

実際に効果があるかどうかはわからないが、真剣な意見である。山川は自分自身とてもお腹が弱いということで、腹痛で苦しんでいる人のために何かしてあげたいという気持ちが人一倍強く、やがて「もう少しの我慢だよ」という気持ちを込めて、カーナビに表示されるパーキングエリアまでの距離を読み上げ始めた。

「あと1,6キロ、1,5キロ・・・」

いよいよゴールは目の前だ。しかしこういう段階が一番危ない。山崎さんから「もうあと少しだと思うと息切れしちゃったりするかもしんないから、少し多めの数字を言っといた方がいいんじゃない?」という意見が出た。すると「それにまだまだだと思ってたのに到着したら、嬉しい驚きだよね」と同調者が出た。でも嬉しい驚きになるかは甚だ疑問であった。一連の会話は岸本の耳にも届いていたはずだから。

しかし山川は「そっか」とあっさり納得して、数字を少し多めにしながらカウントダウンを再開した。

「あと1,8キロ・・・」

数字がさっきより増えてない?

つづく

2007年01月19日

金沢 絆見つけ旅 その7

やっとパーキングエリアに着いた。急げ岸本、走るんだ!・・・・ところが岸本はゾウガメのようにのっそりと車を降り、のたのたと歩いていく。

「走ったりしたら、その衝撃でやばいんじゃないか」

山崎さんが、岸本の後ろ姿を見て冷静に分析する。そういえば若干内股だ。

そして、トイレにしてはやや長い時間が経過した。

「アイツは全てを出し切ろうとしているんだ」そうみんなで爽やかに噂しあい、晴れやかな表情で帰ってくるであろう岸本を待った。

「あ、出てきた」

「ええーっ!」

車内から一斉に声があがった。岸本の表情がとても険しい。一体何があったのか?

「ふがいない戦いをしてしまいました・・・」

便器が和式だったために足がつってしまい、心ゆくまで粘れなかったのだという。

「自分のようにお腹の弱い人間がいると、他の皆さんのテンション下がっちゃいますよね・・・・」

岸本はすっかり自己嫌悪に陥っていたようだが、別に我々のテンションが下がるようなことはなく、「和式にもウォシュレットってあんのかな?」といつもどおり下らぬ会話に花を咲かせていた。しかし、そんな平和な時間は長くは続かないのだった・・・。次回「巻けチェーン!車内に響く暴れ太鼓」にご期待ください。

2007年01月23日

金沢 絆見つけ旅 その8

タイヤのチェーンが切れた。

「ガガガガガ」と激しく車体を打ち付けつけるチェーンの切れ端。切れたのは右側のタイヤのチェーンだったから、運転席の斜め下あたりを直撃する。こんなときに限って、お腹を壊している岸本が運転席に座っていた。「頭がガンガンしておかしくなりそうです」という岸本を見ていたら「上は洪水、下は大火事、これなあに?」というなぞなぞを何となく思い出した。

最寄りのサービスエリアで車を停めてJAFに救援を求めたところ、到着するまでに1時間半もかかるという。せまーい休憩所で途方に暮れる我々。そこへ一台のパトカーが通りかかった。

「ちょっと聞いてきます」

岸本が走り出した。さっきまでゾウガメのような動きがウソのように俊敏な動きだった。

「あたしもImage230行く!」

編成部に異動になる前は報道部で県警担当をしていた宮田(♀)がつづく。警察沙汰なら任して!という勢いだった。2人はパトカーを呼び止めて、中の警察官にインタビューをし始めた。まるでパトカーを検閲しているみたいだ。

戻ってきた二人が検閲の結果を報告する。

「雪も降ってないし、チェーン規制を解除しようかどうか迷ってる段階みたいです。チェーンはここで外していいから、次のインターチェンジで降りて下道を行きなさいって」

「よかったー」

一斉に安堵の声を漏らすメンバーたち。ここに至るまでの苦労は筆舌に尽くしがたいものがあった。筆舌に尽くしがたいので詳しくは書かないけれど、寒い中、チェーンの装着に四苦八苦したのにも関わらず、あっという間に切れ、果てしなく続く「ガガガガガ」という轟音。とにかく大変だったのだ。しかし、そんな苦労を共に乗り越えたことで、我々の絆は確実に深まっていた。

「よーし、『絆』Tシャツを作ろう!」

絆Tシャツ。友情を確かめ合うためには安易なパクリも辞さない我々だ。胸を熱くしているから真冬にTシャツ一枚だってきっと寒くはないさ。

つづく

2007年01月25日

金沢 絆見つけ旅 その9

車内に歌声が蘇った。

さっきまでタイヤチェーンのガガガガガガという音で掻き消されていた中森明菜さんのベスト盤がやっと聞こえるようになった。歌詞カードを見ずに歌えるヒット曲の数々。みんなで元気よく唱和する。

♪無口な女に・・・なるぅわぁあー(サンドベージ)

みんなで声を揃えて歌うとちょっと変なのだった。

敦賀インターチェンジで高速を降りて下道へ。滋賀県に入り、コンビニで休憩する。ここでサイコロタKif_1182_2イムだ。

今回の旅では最初のドライバーは私と決まっていたが、そのあとはサービスエリアやコンビニなどに駐車する度にサイコロを投げて次に誰が運転するかを決めていた。今回の旅のためにメンバー一人一人の名前が入った「人志 松本のすべらない話」風のサイコロが用意されていた。

サイコロが指名したのは私だった。よりによってこんなところで・・・・。下道は路面が凍結している恐れがあった。しかし「すべらない話」同様、すべることは許されない。

みぞれ交じりの雨が降る夜道。それだけでも私には荷が重いのに、路面の凍結は予想以上だった。

「ギアを3rdに!」

後部座席から大久保が短いアドバイスを飛ばす。

「よしっ!頼んだぞ山川」

助手席の山川にギアの操作を任せる。ギア操作のために左手をハンドルから離すのが怖かったのだ。路面の端の方が凍って黒く光っている。道も峠みたいなところに入っていく。ブレーキを使わない運転を心掛け、慎重に運転する。そんな状況だというのに、後ろの人たちは旅の疲れが出たのか、眠っていた。よく眠れるものだ。度胸がいいのか?私を信頼しているのか?眠ってたらそのまま・・・・ということだってあるのに。

1時間ほど走って、ガソリンスタンドに停める。慎重に運転したおかげで、結局最後まですべり知らずであった。

車を停めるのと同時に、みんな「おつかれさまでしたあー!!!」ととても大きな声を出した。あまりの大声にガソリンスタンドのおじさんも「何だろうこの集団は?!」とびっくりした顔をしていた。何だよ、さっきまで眠ってたくせに・・・・。

実は誰一人として眠ってなんかいなかったそうだ。後部座席には運転席以上に緊張感が充満していたらしい。みな恐怖に身を固くして静まり返っていたのだ。あの「おつかれさまでしたー」は「生きててよかったー」という叫びだったのだ。そりゃ声もデカくなるか。

ガソリンスタンドでサイコロを振り、また大久保が私のあとにハンドルを握ることになった。行きに続いて帰りでも私の次にハンドルを握った大久保は、その後みんなから運転がとてもうまいという評価を得ることになった。

名古屋に戻り、事業部・加藤(♀)の家で蟹鍋だ。料理は一切しない私だが、今回は蟹の甲羅を引っぺがすという大役を与えられた。蟹があんなに怒った表情をするなんて知らなかった。両眼を激しく吊り上げ、私を睨む。親指を突っ込んで甲羅を引っぺがすとメリメリメリという音が指先から骨伝導で伝わってくる。あのサイズの生き物の息の根を止めたのは生まれて初めての経験だった。

タイヤにチェーンを巻き、凍った道路で運転し、蟹を殺した。一日で三つも初体験をしてしまったことになる。

「相澤さん、今回の旅で成長しましたね」

もういくつ寝ると38歳なのに成長を認められた。しかも後輩たちに。

おしまい

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プロフィール

【最近面白かった漫画】
「三月のライオン」
「とめはねっ!」
「宇宙兄弟」
「モテキ」
「へうげもの」
「もやしもん」
「こさめちゃん」
「犬のジュース屋さん Z」

【好きな言葉】
「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない」(寺山修二)
「しゃかりきコロンブス」(光ゲンジ)

【担当番組】
ニュースデータで解析!サンデージャーナル、特番など

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